MS法人を活用する5つのメリット
昨今、MS法人(メディカルサービス法人)の存在意義について非常に多くのご質問を頂戴するようになりました。かつては多くの医療法人関係者や専門家の中で、「MS法人=節税」というイメージがありましたが、毎年の税制改正等の影響で現在は状況が変わってきていますので注意が必要です。
MS法人は、医療法人の事務受託を行うほか、医療法人へ不動産賃貸や医療機器リースなどを行うことがほとんどですが、今回はそのMS法人のメリット、デメリットを整理しながらご説明します。
まずはメリットから見ていきましょう。
(1)収益業務の実施
医療法人は医療法の規定により、不動産賃貸や小売などの収益業務が禁止されています(社会医療法人を除く)。そのため、医療法人が病院の隣地を購入し、コインパーキングなどを運営することや、役員社宅を保有して役員へ賃貸することなどはできません。
このような場合には、MS法人にて不動産を取得し、これらの事業を行うことで対応することができます。
(2)交際費の損金算入額確保
現在の税制では、法人の出資金・資本金の額が1億円以下(持分なし医療法人の場合は租税特別措置法施行令37条の4に定められる金額)である場合、交際費のうち800万円まで損金算入が可能となっています。
医療法人、MS法人、それぞれで800万円までの損金算入限度額が設定されるため、交際費が800万円超の医療法人であり、MS法人で経費として支払うことが認められる交際費がある場合には、MS法人で出費することで、損金として計上できる交際費の額が増加することになります。
(3)出資金(株式)の相続税対策
持分あり医療法人である場合、利益状況によっては出資金の相続税評価額が高額になり、相続や事業承継が円滑に進められない事象が生じることがあります。このような場合に、MS法人にて事務受託等を行うと医療法人の利益が減少し、結果として医療法人の出資金相続税評価額の上昇が抑制されることになります。
一方でMS法人株式の相続税評価額は上昇する可能性があるので、MS法人の株主を誰とするべきなのかはよく検討する必要があります。また、医療法人とMS法人との取引における価格設定については税法上、医療法上、ともに適正価格である必要があるため、慎重に決定する必要があります。
(4)配当の実施
医療法人は医療法第54条の規定により利益配当が禁止されています。MS法人が上記(3)のように事務受託等をおこなうことにより、MS法人は利益を計上しMS法人株主へ利益配当を実施することができます。
(5)法人税軽減税率の利用
現在の税制上、出資金・資本金が1億円以下の法人は、法人税の計算上、所得金額800万円以下の部分について軽減税率が適用されます。上記(2)と同様に、法人格が2つあれば、この恩恵も両法人で享受することができます。
消費税増税によりデメリット増大中だが…
次にデメリットを見ていきましょう。
(1)消費税の増加
MS法人の活用を考えた際、一番のデメリットとなるのが、この消費税の問題です。
MS法人はほんとんどの場合、医療法人との間で何らかの取引を行うことになりますが、この取引において消費税が課せられることが多くあります。
たとえば、医療法人がMS法人から医療機器を100万円でリースする場合、取引価格は消費税10%を上乗せし、110万円支払うことになります。その上で、MS法人はこの10万円を基に消費税を算出、申告を行い納税する必要があります。
上記メリットで述べたような恩恵の裏で、このような資金流出が発生していることを理解しておく必要があります。
(2)役員兼務の禁止
医療法上、医療法人とMS法人の役員の兼務は原則的には禁止されています(医政総発0330第4号ほか)。同族関係者のみで医療法人、MS法人を運営する場合、役員の選定には注意が必要となります。
現実には、過去から医療法人とMS法人の役員を兼務しているケースも見受けられますが、昨今では役員兼務においての規定がより明確化されたこともあり、行政指導が厳しくなっている傾向にあります。現在役員の兼務を行っているような場合には法令遵守の観点からも行政への相談等が必要と思われます。
上記のとおり、MS法人においてはメリットもデメリットも存在します。ただ、消費税増税の影響もあり、昨今ではMS法人のデメリットが大きくなっており、実際にMS法人を解散させる運営事業者も増えてきています。MS法人の継続・解散を判断するには、顧問税理士等と協力してシミュレーションを実施することをおすすめします。
中村 慎吾
税理士法人名南経営 医業経営支援部 担当部長
株式会社名南メディケアコンサルティング 部長