株式会社と異なり、医療法人では出資額の多寡に関わらず「議決権は1人1票」。医療法人の円滑経営を行う上で欠かせない「最適な社員構成」を考えるには、制度上の登場人物についてしっかりと理解することが重要です。出資者、拠出者、社員、役員…それぞれの資格や役割について、今一度チェックしておきましょう。

医療法人の経営は「社員構成」がカギ

医療法人経営においては事業承継時だけに関わらず、社員構成が非常に重要な要素になります。詳しくは後述しますが、その一番の理由は医療法人の社員は出資額の多寡に関わらず、社員総会での議決権が一人一票と規定されているためです。

 

社員は社員総会での議決権を持ち、その社員総会で役員の選任等を行うことになっているため、実質的に社員が医療法人の経営を支配していることになります。そのような重要機関の構成は医療法人経営の根幹とも言えるため、一人一票の議決権ということを認識した上で社員の選任が必要になってきます。

 

親族であっても、争族や離婚など関係悪化の可能性も考慮した上で社員構成を決定していくことをおすすめします。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

医療法人の「出資者・拠出者・社員・役員」を整理

まずは、出資者や拠出者、社員について具体的にみていきましょう。

 

【出資者】

出資者とは、持分あり医療法人に対して出資をしている者をいい、医療法人の出資持分を保有します。この出資持分には社員総会等での議決権は付与されておらず、経営に関する直接的・議決的な影響はありません。しかしながら、出資持分の価値は医療法人の財務状況により変動するため、相続時などには非常に高額な評価となることが多くなっています。

 

なお、実際に医療法人が解散した際には、その出資額に応じて残余財産の分配を受けることができますが、法人解散時以外に出資持分の時価払戻しを受ける場合には、後述する「社員」を退社することが要件となっています。そのため、「社員」でない出資者は法人解散時以外に残余財産の分配を受けることはできません。

 

また、出資者は現金や現物の出資を行うことが要件であり、年齢等の制限はなく法人であっても出資者となることができます。

 

【拠出者】

拠出者とは、持分なし医療法人に対して基金(現金・現物など)を拠出している者をいい、持分あり医療法人における出資者と同様に議決権とは無関係です。ただし、拠出者は出資者と大きく異なる点があります。それは、拠出した基金の評価額や分配についてです。

 

拠出した基金の評価は、医療法人の財務状況が好調である場合においても、基金の額面が上限と規定されており、また、分配等を受ける場合にも、その額は基金の額面が限度となります。なお、拠出者についても年齢制限等はありません。

 

【社員】

社員とは医療法人における最高意思決定機関である社員総会を構成する者をいいます(図表1)。社員総会では、役員の選定や定款の変更などの決議を行うため医療法人経営における社員は非常に重要な存在となっています。

 

[図表1]

 

なお、定款に特段の要件を規定していなければ、社員は出資持分を有する必要はなく、社員総会での決議のみで社員として入社することができます。

 

社員は社員総会での議決権を有しますが、議決権数については例外なく一人一票となっており、その構成については最重要検討事項と考えられます。

 

同族医療法人においては社員=出資者という構成になっていることが多いですが、あくまで別の概念として認識しておく必要があります。

 

実際に、出資者であり社員である者が死亡した際、その出資持分を相続した者を社員としていたつもりが、社員入社の決議がなされておらず、出資者ではあるものの社員となれていなかったというケースを頻繁に見受けますので注意が必要です。

 

なお、社員の要件については、医療法人運営管理指導要綱に示されており、自然人であり義務教育終了程度の者である必要があります。

 

【役員】

最後に役員ですが、これらは社員総会の議決により選任されます(図表2)。役員は「理事」と「監事」に分けられます。

 

[図表2]

 

理事は一般に業務執行を行うことにより医療法人運営・経営の実働をおこなっていき、監事は医療法人の財産や業務を監査していく役割を持ちます。

 

また、理事は理事会を構成し、その中から1名を理事長として選定します。なお、理事長は原則、医師又は歯科医師でなければなりません。役員の選任にあたっては、具体的に年齢制限はありませんが、高校卒業程度の能力が求められることになっています。

 

法律的・対外的には理事長や理事が経営者であるものの、医療法人制度上、実態は役員選任の権限を持つ社員が経営をおこなっているというケースは少なくありません。

改めて自法人の「現状の社員」を要チェック

今回は、医療法人制度上の登場人物について解説しました。医療法人経営において社員は非常に重要なキーパーソンであるものの、中小・零細医療法人においては、社員名簿が整備されていなかったり、社員総会で社員入退社の手続きがされていなかったりと、現状の社員が誰なのか把握できなくなっている場合が多く存在します。

 

社員が出資者を兼ねている場合には、社員に出資持分払戻請求権や残余財産分配請求権などが生じるため争族、紛争になり兼ねません。

 

今一度、自法人の社員が誰なのかを確認し、仮に不明である場合には早急に明確にし、社員名簿等を整備しておいた方がよいでしょう。

 

 

中村 慎吾

税理士法人名南経営 医業経営支援部 担当部長

株式会社名南メディケアコンサルティング 部長

 

 

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