今、多くの医療法人が事業承継の決断を迫られています。承継方法としては親族内承継が一般的ですが、必ずしも後継者がいるとは限りません。宛てがあっても、経営状況や財産状況、今後の医療情勢によっては親族内承継のデメリットが大きくなる恐れもあります。円滑円満かつ効率的に事業承継を行うには、どうすればよいのでしょうか? 今回は「親族内承継」「M&A(第三者承継)」の2つを比較・解説します。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

「医療法人の事業承継」は大きく分けて2つ

昭和60年の第一次医療法改正以降、医療法人の数は爆発的に増加し、当時から30年以上が経過した現在、多くの医療法人は事業承継のタイミングに差し掛かっています。

 

各医療法人において後継者の有無や、出資金評価の多寡などによって承継手法の選択は異なりますが、大別すると「親族内承継」、「M&A(第三者承継)」に区分することができます【図表】。

 

【図表】一般的な事業承継手法

「親族内承継」のメリット、デメリット

一般的に同族経営の医療法人において後継者が存在する場合には親族内承継を選択することがほとんどです。

 

親族内承継を実行することができれば、一族で長年に亘り医療法人経営を行うことができ、その収益から役員報酬を得ることができます。加えて、病医院の不動産を役員個人が所有している場合には、不動産収入も得ることができます。

 

また、病床などはある意味、既得権益的な存在であり、現状の経営が順調であれば親族内承継の効果は非常に大きいものとなります。

 

しかしながら、親族内承継も良い事ばかりではありません。親族内承継の具体的手法としては、出資持分の譲渡(売買)、贈与、相続や持分なし医療法人への移行(出資持分放棄)などが挙げられますが、そのほとんどの場合、承継に伴う多額の税金が発生するため、医療法人や後継者などの財産状況が悪化することになります。

 

もちろん、承継のタイミングや対策を練ることでその納税額を少なくすることは可能ですが、承継資金の手当てについては後継者の意志や金融機関との関係性などをよく検討しておく必要があります。

 

また、上記のような出資持分承継による納税問題だけでなく、今後厳しくなると予想される医療情勢や、後継者の経営能力、カリスマ性などについても承継前に勘案し意思決定を進めていくことが重要です。

 

近年注目の選択肢「M&A」のメリット

昨今では、一般企業のみならず医療法人においても承継手法の一環としてM&Aが非常に注目を浴びています。

 

上記のような出資持分の問題から早期にセミリタイアし出資持分の譲渡益で余生を謳歌したいといったニーズのほか、後継者不在によるM&Aの選択が増加しています。

 

M&Aにおける譲受法人では、開業から現在までの「時間」を買うという意味合いのほか、病床機能の多角化や、既存病医院との連携によるサービス強化、医師等の確保、スケールメリットを活かしたコストダウン、遠隔地への進出、病床の引継ぎなどが可能となります。

 

一方で譲渡法人においては、先に記載したような後継者問題の解決のほか、地域住民への永続的医療提供、従業員の雇用確保、出資持分財産の流動化などがメリットとなります。

 

また、M&Aと一言で言ってもその手法には、一般的な出資持分譲渡以外にも事業譲渡や分割、合併などがあり、その選択においては譲渡法人、譲受法人の個別事情に照らして判断することになるため、必ず専門家によるアドバイスを受けて進める必要があります。

 

事業承継は経営者にとって最後にやってくる最大の決断になります。親族内承継とするのか、M&Aとするのか、またどのような手法によって進めるのか、心身ともに健康な段階から検討することで、より円満円滑で効率的な事業承継を成功させることが可能となります。経営者の急死や認知症発症などのリスクも考えられますので余裕をもった承継対策をおすすめします。

 

 

中村 慎吾

税理士法人名南経営 医業経営支援部 担当部長

株式会社名南メディケアコンサルティング 部長

 

 

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