近年、経済のグローバル化に伴い、国境を越えたヒト・モノ・カネの移動が盛んとなり、富裕層を中心として個人の海外投資が拡大し、同時に国境をまたいだ相続の件数も増加しています。その結果、各国の相続税などの課税方式の違いや納税義務者や相続税の対象となる財産の範囲の違いを原因として、国際的に二重に相続税が課税されてしまう可能性があります。今回は、相続税申告を数百件経験した相続・事業承継専門の税理士法人ブライト相続の竹下祐史税理士が、海外財産の相続時に発生する二重課税の問題について解説していきます。

相続税の二重課税の問題

各国における「居住者」の判定基準、判定対象者、判定時点が異なる場合に、二ヵ国両方で居住者として判定され、二重課税の問題が生じる可能性があります。各国はそれぞれ自国の税法により独自のルールを定めていますので、二ヵ国間のルールの不整合が大きい場合、納税者は高い課税リスクを負う可能性があります。

 

たとえば、死亡した被相続人が米国居住者で、相続人が日本居住者の場合、米国では被相続人が残した米国に所在する財産及び日本に所在する財産が課税対象とされ、日本においても、両国の財産に対して相続人に相続税が課税されるため、後述する「外国税額控除」や二国間の「相続税条約」がない場合には、以下の通り日米両国で二重課税が生じる可能性があります(図表2)

 

[図表2]
[図表2]

外国税額控除による二重課税の排除

このような二重課税の問題を回避するため、各国で「外国税額控除」という制度が設けられています。たとえば、日本では相続によって外国にある財産を取得した場合に、その財産に対して外国の法令によって日本の相続税に相当する税を課された場合には、その財産についての国際的二重課税を排除するため、外国で課された相続税相当額を、日本の相続税から控除することができます(相続税法20の2[図表3])。

 

[図表3]
[図表3]

外国税額控除でも解消できない二重課税問題

外国税額控除は、国外財産に対して国外財産の所在する国で課された税が対象となるため、ある財産が日本と外国のいずれの国の税法においても国内財産として課税対象とされた場合は、両国それぞれの外国税額控除制度によって二重課税を排除することはできません(図表4)

 

[図表4]
[図表4]

 

また、たとえば[図表5]のように、日本とアメリカの両方で居住者と判定され、日本とアメリカ以外のフランスに財産が所在するケースを考えてみます。この場合、フランスに所在する財産に対して、フランスで課された税については日本で外国税額控除を適用することができますが、フランスの財産についてアメリカで課された税については、日本で外国税額控除を適用できません。

 

[図表5]
[図表5]

 

このような外国税額控除によっても解消できない二重課税の問題については、「二国間租税条約(相続税条約)」によって調整されることがあります。

 

租税条約は税目ごとに設定されますが、現在日本において「相続税」に関する租税条約はアメリカとの日米相続税条約のみとなっています。日米相続税条約では、ある財産を、外国税額控除の適用上、いずれの国の財産として取り扱うか(第三条)、また、第三国に所在する財産に係る相続税についての外国税額控除の調整(第五条)の規定を設けており、これらによって二重課税の調整を行っています。

 

なお、日本とアメリカ以外の国との双方で居住者と判定された場合、相続税条約による調整がないため、上記の二重課税の問題は解消されないままとなります。

 

■まとめ

海外財産を相続する際には、国際的な課税ルールの不整合により、想定外の税金負担が生じる可能性があることをご理解いただけたかと思います。また、海外財産の解約や換金、名義変更の手続は煩雑となるケースが多く、手続のための専門家や業者への手数料が非常に高額になることもあります。

 

海外財産への投資については、相続を含めた出口の戦略も考慮して検討することが大切です。

 

 

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