医療エラーを防ぐためには、チーム間での情報共有において気をつけるべき点が多くあります。会話での情報伝達には思い込みによる誤解が発生するものです。ここでは、対策法を事例とともに見ていきましょう。※本記事は、河野龍太郎氏の著書「医療現場のヒューマンエラー対策ブック」(日本能率協会マネジメントセンター)より抜粋・再編集したものです。

医師が「うわの空」もあり得る…問い合わせは具体的に

ベテラン看護師は、「いつもの指示量と比べて多い!」と医師の指示に疑問を持ちました。そこで、医師に「これでいいのでしょうか?」と問い合わせました。これを聞いた医師は、「ああ、いいよ。いつもそうだよ」と応えました。ところが、結果的に10倍の薬剤が投与されてしまいました。原因は医師の指示の間違いでした。

 

疑問を持った看護師は「自分の思い違いかもしれない」と自信がなかったのかもしれません。しかし、第一に考えてほしいのは患者の安全ですから、勇気を持って疑問を持った内容を問い合わせてください。

 

たとえば、「Aさんへ『B薬剤○mgを静注』は、いつもの量よりかなり多いと思いますが、この指示でいいのでしょうか?」というようにです。

 

医師は他のことで忙しく、うわの空で聞いていることがあります。これは人間の注意の特性上避けられない部分でもあるので、患者の安全のために具体的に問い合わせることをぜひお願いします。

「指示どおりにやれ」という医師の態度にも食い下がる

研修医が内服薬を点滴投与するように指示を出しました。看護師は「内服薬を点滴投与するという指示はこれまで受けたことはありません」と応えました。

 

しかし、研修医は指導医の指示だと答えました。そこで看護師は「内服薬を点滴投与するということは、ミルクを血管に入れることと同じですよ」と反論しました。研修医は「看護師は指示どおりにやればいいんだ」という態度を見せました。

 

納得できなかった看護師が指導医に問い合わせたところ、内服薬ではなく別の薬を点滴投与する指示だったことがわかりました。

 

要は、納得できるまで食い下がれということです。前述のTeam STEPPSでは、Two-Challenge-Ruleと呼んでいます。指示を受けて納得できず、医師に問い合わせ、指示どおりにやるように言われて、それでもまだ納得できない場合は、さらにもう一度医師に確認するという慎重さが安全のために重要です。

「指示代名詞」「単位の省略」紛らわしい伝達は避ける

医師が「いつもの(あの)処置で!」と指示をしました。それを受けた看護師は「はい、わかりました」と応えて処置をしたところ、医師の考えとは異なる処置を患者にしてしまいました。

 

コミュニケーションが成立するということは、送り手と受け手の心理的空間が一致することです。指示代名詞はお互いに異なったことを思い浮かべるという危険性があるのです。

 

また、単位の省略によるコミュニケーションエラーがしばしば発生しています。医師の「時間4で投与してください」という指示に、看護師は「わかりました。時間4ですね」と復唱しましたが、結局100倍の薬剤が投与されてしまいました。

 

医師の言葉の意味は4単位/時間でしたが、その指示を受けた看護師は4㎖/時間と理解してしまったのです。

 

小児科病棟のリーダー看護師が「Aちゃんの点滴を終了してきてください」とメンバーの看護師に伝えました。伝えられた看護師は「ハイ、わかりました」と応え、病室に向かいました。

 

この例には2つの問題があります。まず、ヴァーバルコミュニケーションの基礎である復唱と照合が行われていません。

 

もう1つは、Aちゃんという患者の名前による識別です。Aちゃんという子供に向かって話しかけるときはそれでもかまわないのかもしれませんが、医療スタッフ同士のコミュニケーションでは、患者間違いのリスクを下げるために、フルネームで情報を伝達すべきです。

 

 

河野 龍太郎

株式会社安全推進研究所 代表取締役所長

 

 

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医療現場のヒューマンエラー対策ブック

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河野 龍太郎

日本能率協会マネジメントセンター

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