2020年、新型コロナの感染拡大で世界の自動車産業も大きな打撃を受けた。ほぼすべての自動車メーカーが巨額赤字を計上するなか、トヨタ自動車は2020年4月~6月期の連結決算(国際会計基準)では、当然のように純利益1588億円を達成した。2021年3月期の連結決算は、売上高27兆円、純利益は2超2452億円と急回復させた。この危機で命運を分けた最大の理由はトヨタ自動車の優れた危機対応力にあった。本連載は野地秩嘉著『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)より一部を抜粋し、再編集したものです。
支援と調達は切り離す?「見返り」ではない!
支援、あるいはトヨタ生産方式を広める際には「やってはいけない」原則もある。
それは協力会社が復旧し、以前よりも生産性が向上し、利益が出る体質になったとする。その情報を調達部門には伝えないということだ。
朝倉は解説する。
「これまた人の道です。たとえば、トヨタがある部品を100円で仕入れた。買い入れ価格は100円。そこには協力会社の利益が乗っている。支援なり、カイゼンをすれば、僕らは原価構成を知ってしまう。材料費がいくらで、工数がこれだけだから、利益はこれくらいになるとわかる。僕らが入って10円の儲けが20円になったとする。だが、その情報は調達には伝えないし、利益が増えたから買い入れ価格を下げるなんてことはしないんですよ。
かつてはそういうことをやったかもしれない。しかし、それをやると、カイゼンも支援も来てくれるな、となる。当たり前ですよ。
いろいろ指導されて、ラインの人数を少なくしろと言われて、あげく安くしろと言われたら、誰もついてきませんよ。これはもう原則です」
トヨタはといえば「乾いた雑巾を絞る会社」「協力会社に毎年、値下げを迫る会社」と思われている。実際、協力会社に原価低減を頼むことはある。しかし、支援や改善の結果、交換条件としてそれを持ち出すことはない。
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、ビジネス、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。
『TOKYO オリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。
『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『企画書は1行』『なぜ、人は「餃子の王将」の行列に並ぶのか?』『高倉健インタヴューズ』『高倉健ラストインタヴューズ』『トヨタ物語』『トヨタ現場のオヤジたち』『スバル ヒコーキ野郎が作ったクルマ』『トヨタに学ぶカイゼンのヒント71』『日本人とインド人』ほか著書多数。
著者プロフィール詳細
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連載トヨタ自動車の「危機対策本部」の舞台裏を大公開!