デベロッパーは容積率を使い切るように建物を作る
マンションの広告では「南向きの高台、選ばれた家族のために生まれる50邸」などといった文言を見かけたりします。
このコピーの意味合いは南向きです程度の情報しかないのですが、もっと深読みするなら「あなたのためにこのような住まいを作りましたよ」的な感じでしょうか。
しかし、マンションはたいていの場合、住む人のことを考えて建物を計画するのではなく、土地自体の各種規制からスタートするのです。悲しいことに計画の基本は住み心地のよい建物を作ろうではなく、最大限どんな建物が建てられるかが現状なのです。
建物を建てる際に、最初にクリアしなければならない課題は容積率です。容積率とはある面積の土地にどれだけの床面積の建物を建てられるか(これを延べ床面積と言います)を建築基準法やその他法令によって決められたものです。
たとえば、容積率が200%の場合には、土地面積の2倍まで延べ床面積がある建物を建てられます。500坪の土地で容積率が200%なら、延べ床面積は最大1000坪という計算です。
ところが、実際には計算通り1000坪も作れないことがよくあります。なぜなら、土地には容積率以外にもさまざまな制限があるからです。日影規制、いわゆる道路斜線、北側斜線に、東京都であれば窓先空地、用途地域によっては高さ制限、道路の幅による容積率ダウンなどなど。
また、一部地域のみで実施される規制もあり、容積率が200%でも、各種制限を考慮して容積率を計算してみたら180%、190%しか建てられないということもあるのです。
しかし、容積率の上限いっぱいまで建物が建てられないとなると、その土地は会社に不利をもたらします。同じ500坪の土地に1000坪分、70㎡の3LDKが45戸作れる場合と、900坪、40戸しか作れない場合があるとしたら、後者が不利であることは一目瞭然です。
同じ価格で売るとしたら、5戸少ない分、売り上げは減りますし、戸数が少ない分、価格を高くして売るのも相場から考えると、難しい場合も多いのが現実です。つまり、容積率の上限いっぱいにまで建てられない土地(これを容積率を消化できないと言います)は利益の上げにくい、よくない土地ということになります。
そこでデベロッパーはあの手この手を考えて、できるだけ容積率を使い切れるように建物を作ることを考えます。もし、どうやっても容積率を消化できそうにない土地であれば、購入はしません。なぜなら儲からないからです。
ちなみに、容積消化の難しい土地の場合に、さらに容積を増やすためにデベロッパーがまず考えるのは、北向きなどの方位条件の悪い住戸を仕方なく作ることを検討します。それがだめならわずかでも住戸の奥行きを伸ばします。
土地の間口は決まっていますから、結果的に、縦に細長い住戸が量産されることになります。この問題点については、連載第22回以降で細かく説明します。
経済効率を優先するあまり「いびつ」な住まいに・・・
次にレンタブル比と施工床面積が検討されます。レンタブル比とは専有面積(販売する住戸すべての専有面積の合計)を延べ床面積で割った比率です。非常に簡単に言うと、売れる面積と売れない面積の割合です。
これは比率が高ければ高いほど、売れる正味面積が多くなり、同じ建物を作ってもおトクな計算になります。
そこで、デベロッパーは「エレベータを小さくしましょう」や「共用施設を小さくしましょう」と、レンタブル比を上げる努力をします。売る面積が増えれば、坪単価は下がる(利益率が一定の場合)という関係性なので、買う側にもおトクと思ってもらえるわけです。
さらに施工床面積というものもあります。これは住戸だけではなく、バルコニーや階段、駐輪場、駐車場までを含めた面積のことで、この数値はレンタブル比とは逆に、工事をする面積が少なくなれば原価が下がることになります。
そのためデベロッパーは「バルコニーを小さくしましょう」や「駐輪場を小さくしましょう」などといった手法で工事費を下げる努力をします。
都会のマンションでは時々非常に小さなエレベータや、分譲戸数に対し設置箇所が少ないと感じるエレベータ、バルコニーの幅が狭い住戸などがありますが、これは売り手にとって無駄な部分を削り取っていった結果です。
住み心地よりも、法規制をクリアしながら容積消化を優先させたり、レンタブル比を上昇させ、施工床面積を削ったりすることでどこまで原価を下げることができるのかを検証するのが、マンション計画の一般的なスタートの仕方なのです。
[図表]デベロッパーがマンション建設で気にする3つの要素
次回以降は、その効率優先の考え方が行きすぎた結果、住まいを歪め、おかしな姿になっている現状をご説明しましょう。