風に揺れるカーテンの合間から感じる視線・・・
月曜日の朝のことです。中学生になった娘は、自分の部屋で学校に行くための準備をしています。風に揺れるレースのカーテンの合間からは、共用廊下越しに駐車場が見えます。窓に背を向け、パジャマを脱ごうとした時、ふと視線を感じます。振り返るとスーツ姿の男性が、窓の外を通りすぎていく・・・。
娘の部屋が面した共用廊下は、いろんな人が通ります。まして朝の通勤時間のこと。誰もが忙しく行き来する時間です。通りすぎたと思っているところに、また誰かが。そこで、娘はカーテンを閉じ、窓も閉めます。でも、暑くなるからとエアコンを入れ、ドアを閉めます。これでひと安心です。
一方、リビングではお母さんが朝食をテーブルに並べているところ。テーブルについて新聞を読んでいるお父さんが一言つぶやきます。「なんか、蒸し暑くないか?」
言うまでもなく娘の部屋から流れていた心地よい風が止まったのです。もうひとつの共用廊下に面した夫婦の寝室は、外から見られたくないため、窓は閉められたまま。朝食の支度で忙しいお母さんは、座っているお父さんより早くから暑さは感じていましたが、エアコンが苦手なため我慢をしていたのです。「そう、じゃあ、仕方ないわね」お母さんは窓とカーテンを閉め、エアコンをつけます。「これじゃあ、朝の爽やかな雰囲気が台無しじゃない」
住み心地に大きな影響を与える「外部と接した空間」
人が通る共用廊下に面した居室では、通る側に見る意識がなかったとしても視線が気になるのは当然と言えば当然。まして、女性であれば、気になってカーテンや窓を閉めてしまうことも考慮に入れ設計されなければなりません。
ちなみに、この中学生の女の子が着替える居室前の通行量は計算できます。全員がエレベータを使用すると仮定した場合、その住戸の右隣にエレベータがあるとして、左に10軒の住戸があったとします。ファミリータイプのマンションでしたら、3人家族として朝6時30分~8時30分までの2時間に通勤通学やごみ捨てに行くと仮定します。
ごみ捨てだけは往復しますので、1世帯4人換算で40人がエレベータを利用することになります。120分に40人が通るのですから、約3分に1人の割合で居室前を人が通る計算になります。きっと3分では終わらないであろう中学生の女の子の着替えには、商品企画者として配慮したいものです。
田の字型の間取りでは各居室の窓は住戸全体の通風のために大きな役割を担わされています。子どもが窓を閉めると、家全体の風が止まり、リビングにいる家族も含め、全員が不快な思いをします。つまり、デベロッパーは通風とプライバシーを両立するような住まい作りを考えなければなりません。
通風専用の窓を設けるという工夫とも重なります。田の字型の間取りでは住戸は共用廊下とバルコニーの間に細長く取られますが、そもそも、これを前提として間取りを考えることをやめれば、共用廊下と居室が接しないように作ることもできるのです。
また、敷地の形状、法令上の制限などから、共用廊下と居室が接した配置にせざるを得ない場合にも、視線を遮るためのルーバー面格子を付ける、袖壁や花台や草花などを利用して、共用廊下からの視線が居室内に向かないようにするなどの工夫がなされて然るべきです。
共用廊下と居室、バルコニーとリビングのように、専有部分が外界と接する空間を中間領域と呼びますが、ここをどう設計するかで住み心地は大きく変わります。そこに配慮があれば、マンションでも通風に優れた、プライバシーを守る住まいは作れるのです。もちろん家族が心地よく過ごす朝も守られます。