そよ風の心地よさを楽しんでいたのに・・・
日曜日の昼下がり。お父さんはリビング隣の和室に横になり、のんびりと新聞の紙面を追っています。大きく開け放されたバルコニーの窓から、心地よい風がそよそよと入ってくる。
そこへ、来客。妻の友人たちが遊びに来たのです。気を利かせ、お父さんは襖を閉めます。そのとたんに和室の風が止まってしまいました。風の出口を失った無風の空間はじわじわと暑く感じられるようになってきます。
襖の向こうでは、何人かが入ってくる気配。妻はエアコンをつけ、光熱費のためからか、同時にカーテンを閉めます。エアコンの送風の音が微かに聞こえてきます。しかし、締め切られた和室ではエアコンの涼しさを享受することができません。ひとり、和室に残されたお父さんは、何だか、閉じ込められたような気分です。もちろん、ここを出てエアコンのある寝室に戻ればよいのですが、談笑している妻たちの前を甚平姿で横切るのも気が引けます。
隣では次第に話が盛り上がり、笑い声が大きくなる。襖一枚、温度差はどのくらいになるのでしょうか。お父さんの額にはうっすら汗が浮かび、その笑い声にいつしか苛立ちを覚えます。
着た時にはぱりっと肌に心地よかった綿の甚平が汗で湿っぽい。むっとしたまま、お父さんは新聞を読むのもやめ、やるせない気持ちで畳の上に大の字に。「俺ののんびりとした休日を返せ!」
窓の数が多く、通風が確保しやすい設計が重要
日本のマンションの主流となっている田の字型の間取りが生む問題点については、本連載の第23回にも触れましたが、再度、簡単に説明すると、効率優先で作られた細長い住戸は窓の位置から、ほぼ自動的に、リビングを含めた各居室が田の字に配置されます。
そして、窓の開け閉めは各居室を使っている人間が勝手に行います。通風は各居室に配された窓と窓の関係性で成立しているのですが、誰もそんなことを考えずに、自由気ままに窓を開閉しますから、誰かひとりの都合で住戸全体に風を通すことができなくなるのです。
もし、窓が開いていたとしても、田の字型の間取りの中央にある框扉が閉まれば、家中の風が一瞬で止まるようになっているのです。前述のように、リビングに面した和室の襖を閉めれば、和室に吹いていたバルコニーからの風の抜け道はなくなり、風は止まります。お父さんが暑い思いをするのは当然なのです。また、来客に配慮してリビングの框扉が閉められると、今度はリビングの風も止まります。
人間が感じる温度(体感温度)は気温だけで決まるものではなく、風や湿度などにも強く影響されます。風があれば同じ気温でも涼しく過ごせますが、無風になると急に暑く感じるようになるのです。風通しのよい住まいはイコール涼しい住まいでもあり、作り手には部屋の使い方を想定した上で通風のよい家を作る工夫が求められます。
具体的にはコストが上がっても、できるだけ窓の数が多い間取りを作り、窓と窓の関係性のシミュレーションを重ねることです。間取りは角部屋や間口の広いワイドスパン、あるいは両面にバルコニーが作れるプランをベースにしたいところです。また、各居室の窓や扉を閉めても、風が流れるように各居室の使用状況とは関係なく開閉できる窓を設計したり、各所に引き戸を使いプライバシーを守りつつ通風を確保する設計も有効です。
田の字型の間取り図で説明したように、一般的には4カ所しか窓が取れない中住戸でも、住戸の配置とこうした通風窓を作り、家族内の人間関係を間取りで考慮することを怠らなければ、住宅の基礎的な条件としての風通しが得られるようになるのです。そのような各種の工夫のある間取りを購入していれば、襖の閉まった和室でもお父さんは暑くてイライラする思いをすることはなかったはずです。