認知症になる高齢者の数が増加しています。不正防止の観点から、認知症とわかると預金者の口座をすぐに凍結してしまう銀行もあります。今回は、親の財産を管理する「家族信託」と「成年後見制度」を比較し、凍結された口座を解除できるたった1つの方法を解説します。※本連載は、石川秀樹氏の著書『認知症の家族を守れるのはどっちだ!?成年後見より家族信託』(ミーツ出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

 

ではその金銭は、誰がいつのタイミングで受託者の通帳に入れるのでしょう。

 

基本的には委託者です。委託者が信託契約締結と同時に、自分の通帳からお金をおろし受託者名義の口座に入金するか、あるいはキャッシュカードで振込をします。ですから委託者はその時点で、契約ができるほどの判断力がある、というのが前提になります。

 

「銀行に預金を凍結されちゃったから、受託者が助けてあげて」というわけには参りません。最近の銀行はことのほか高齢者の現金引き出しにナーバスです。認知症だとみるや、すぐに“凍結”にと走ります。それが正しいこと、お客さまの安全を守ることと信じているのです。

 

そして「いったん凍結した通帳から預金を引き出せるのは成年後見人だけだ」と思い込んでいます。というより、そういう申し合わせが行内、店内にできあがっています。

 

本人や家族にしてみれば、まことに迷惑千万。大きなお世話の“過剰正義”に映るはずですが、銀行は姿勢を曲げません。ですから残念ながら、凍結された預金口座の解約ができるのは公的な後見人だけです。

 

銀行によっては、財産管理の委任契約を結んでいる受任者も、公正証書で契約している任意後見人の解約要請も、断ることがあるほどです。なんのための委任契約なのでしょう。成年後見人偏重の度が過ぎています。非常に負担の重いこの制度を、銀行は「(銀行にとって)いちばん安全」と思って重視し始めていることを、一般の“お客さま”はまったく気づいていません。

 

きわめて憂慮すべき事態が、静かに、しかし確実に進行しています。

 

さて、「預貯金口座の開設や解約、取引」について著者は、成年後見人「〇」、受託者「×」、家族「△」としました。今は「家族については、ちょっと甘かったかなぁ」と思い始めています。「定期預金の解約ができるかどうか」を規準に考えてみると、よほどの説得上手でも「今は無理かなぁ」と思えるのです。

 

では普通預金口座からの出金は?というと、事と次第で、銀行によっては引出しや振込に応じてくれる銀行も少しは残っているかもしれない、と思います。

 

例えば、けっこう困ってしまうのが介護施設に家族が入所したときの振込です。施設から指名された銀行に本人の口座がない場合、家族が振込(定期送金)の入り口として口座開設を申し入れるわけですが、このハードルが高い。基本「本人の意思確認」が出てきます。認知症、あるいは重篤な病気で応答できない…などの場合、ここが突破できないと、家族が費用を負担するしかなくなります。

 

しかしこの場合、使途は明確です。施設からの振込依頼がある、他行ながら本人の通帳もある、家族(本人の推定相続人)全員の「応諾書」もある。

 

この場合に、銀行が口座を新規開設し、そこから施設に振替を行うことは、決して正義に反しない。そう思いませんか? そのような理屈で、著者は家の問題を解決したことがあります。2年前の話です。今でもこの“切なる願い”を聴き届けてくれる金融機関はあると信じていますが…、どうでしょうか。「自信がある」とは言えないながら、人情に期待を込めて、家族は「△」としておきます。

口座の凍結解除目的で「成年後見」を使ってはいけない

家族信託の受託者には預貯金凍結を解除させる権限はない、とわかって、「なんだ、期待外れもいいところ」と思った人もおられるでしょう。「さにあらず」です!

 

成年後見人は預貯金を確かに動かしてはくれます。死に金が生き返ります。でも、その副作用を考えると、凍結された通帳を解除するためにこの制度を使っていいかどうかは、難しい選択になるはずです。

 

銀行からおろしたお金を、後見人は家族に渡してくれるわけではないのです。そのお金を含め、全部の財産を本人が亡くなるまで適切に管理して本人の財産を守り切る、というのが成年後見人の役目です。

 

その点を誤解して、預金を引き出してくれる“ワンポイントリリーフ”のように思う人が多いですが、違います。成年後見を申し立てる多くの人が、勘違いしたままこの制度を使い始めるので、大きな問題になっているのです。

 

「凍結されたお金を動かしたい」だけの発想で成年後見を使ってはいけません。「そのお金を家族である自分が管理して、本人の安心・安全と福祉を実現したい」と思っている人が大半だと思いますが、後見人に預金引き出しをゆだねれば、その願いはかなわなくなることを理解してください。

 

成年後見制度を使うということは、本人の財産管理については恒久的に後見人にお任せする、ということです。そのことがわかった上で、後見申立てをするか、しないかを決めましょう。

 

石川 秀樹

静岡県家族信託協会 行政書士

 

 

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認知症の家族を守れるのはどっちだ!?成年後見より家族信託

認知症の家族を守れるのはどっちだ!?成年後見より家族信託

石川 秀樹

ミーツ出版

認知症による預金凍結を防ぐ。名義を移してお金“救出”信託こそが庶民の知恵。カラーイラスト、読みやすい文章、豊富な信託事例。 第1部 認知症と戦うー財産凍結の時代が来た!成年後見より家族信託を使え 第2部 受益権…

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