経済学では、別の選択肢を選んでいたら得られたであろう利益を「機会費用」と呼び、常に念頭に置くことが重要だと考えます。街頭で募金を募るより、同じ時間アルバイトしたお金を寄付したほうが、若手営業マンにもタクシーを使わせたほうが、全体から見た利益は大きいかもしれません。本記事では「機会費用」について、経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

ヒラ社員をタクシーに乗せたほうがメリットになる場合

取引先を訪問する際、高い給料をもらっている部長は「バスを待つ時間がもったいないから、タクシーで行って下さい」といわれます。しかしヒラ社員は「君の給料は安いのだから、バスを使ってください」といわれるわけです。

 

じつはここに問題が潜んでいます。着目すべきは給与額ではなく、仕事の能力なのです。

 

部長に高い営業力があり、1時間で数十万円を稼ぐのであれば、「バスに乗っている間に何万円も稼げるのに。タクシー代を惜しんでバスを使うのはもったいない」といえるでしょう。

 

しかし、部長が年功序列で高い給料をもらっているだけの無能なら、「部長はバスで行って下さい。タクシーで取引先へ急いでも、どうせ契約はとれないのですから」というのが正解ですね。

 

一方、若手社員が非常に優秀なら、「バスに乗っている時間が惜しいから、タクシーで行きなさい。多くの契約が取れれば、タクシー代の何倍もわが社の利益になるのだから」というのが正解でしょう。

 

まあ、純粋に会社の利益のみを考えた場合には上記となりますが、社内政治まで考慮したうえで、本当に正しいといえるか否かは、なかなか判断がむずかしいですね。そこは「大人社会」の事情です(笑)。

恐ろしい…家庭における「家事分担と機会費用」の議論

各家庭における夫婦の家事分担についても、なかなか着地点が見えにくい問題だといえます。協議を開始すると際限なく論点が出てくるでしょうが、本稿では機会費用の話に限定し、正社員である夫とパート労働者である妻の主張を考えてみましょう。

 

夫:自分の時給はあなたの時給より高い。だから、僕が家事をするのは機会費用が大きくもったいない。あなたが家事をすべきだ。

 

妻:私が家事をしなければ、その分だけパートで稼げるので、機会費用はパートの時給だ。しかし、あなたは残業を命じられない限り残業できないのだから、家事をせずにいても結局遊ぶだけ。機会費用はゼロだ。

 

夫:もし残業を命じられなくても、家事をせずに英会話の勉強をすれば、僕の生涯所得は大きく増加する。その分が僕の家事労働の機会費用だ。やはりあなたが家事をすべきだ。

 

…この理論展開では夫が有利に見えますが、もし私が夫なら、恐ろしくて妻にこんな主張はできません。だって、英会話の勉強をサボった途端、妻の鋭い一瞥とともに、すべての家事労働が降りかかってくるのですから(笑)。

 

今回は以上です。なお、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かいところについて厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

 

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