米国では期待インフレ率が高まりつつあり、長期金利は上昇基調にある。日米金利差拡大を受け、市場はドル高・円安予想へ傾きつつあるかもしれない。しかしながら、為替の決定要因は実質金利差だ。米国政府及びFRBは、実質金利をマイナスとすることで、新型コロナ禍により拡大した財政・金融政策の軟着陸を目指すだろう。中期的なドル安傾向に変化はないと考えられる。※投資のプロフェッショナルである機関投資家からも評判のピクテ投信投資顧問株式会社、DEEP INSIGHT。本連載では日々のマーケット情報や政治動向を専門家が読み解き、深く分析・解説します。

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円/ドルレート:重要なのは実質金利差

米国では長期金利が上昇基調にある。昨年7月に0.5%台だった10年国債の利回りは、約1年ぶりに1.3%台に達した。

 

そうした米国での金利の動きを受け、日米金利差拡大への思惑から、為替市場ではドル高・円安の予想が増えつつあるようだ。3月18、19日に開かれる政策決定会合において、日銀はイールドカーブ・コントロール付き量的質的緩和の「点検」を行うとしている。もっとも、物価目標や政策の根幹に変化はない見込みであり、10年国債利回りの誘導水準も大きくは変わらないだろう。従って、名目長期金利については、日米間のスプレッドが一段と広がる可能性は否定できない。

 

もっとも、理論的には、為替の決定要因は名目金利差ではなく、物価上昇率の違いを反映した実質金利差だ。これまでの円/ドルの動きを経験的に見ても、名目長期金利差ではなく、実質短期金利差に連動してきたと言える(図表1)。

 

期間:1993年~2021年1月 出所:Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表1]日米金利差と円/ドルレート 期間:1993年~2021年1月
出所:Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

1月の日本の消費者物価は前年同月に比べて0.6%下落した。期待インフレ率は足下の物価動向に左右される傾向があるため、日銀が長短金利をゼロ%近辺に誘導しても、日本の実質金利はプラスゾーンにある。

 

一方、インフレ連動債(TIPS)と10年国債の利回りから算出される米国の期待インフレ率は2.2%程度だ(図表2)。従って、米国の実質短期金利は2%強のマイナスと考えられる。

 

期間:2007年〜2021年2月19日 出所:Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表2]米国の期待インフレ率 期間:2007年〜2021年2月19日
出所:Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

日本の実質金利が米国を上回っている以上、金利裁定の観点から、ドル安・円高の中期的な流れは変わっていないだろう。FRBが金融緩和を継続、金利の上昇を抑制する状況の下、米国の期待インフレ率がさらに高まれば、むしろそれはドル安・円高要因なのではないか。

バイデン政権:物価上昇による軟着陸を模索か⁉

米国において、景気の回復を政策的に支援しつつ、財政・金融政策のソフトランディングを目指すのは、極めて高度なオペレーションと言えるだろう。特に難しいのは、マーケットが早い段階でインフレリスクに過敏になり、市場金利が急上昇すると、バリュエーション面から割高感が高まって株価が大きく下落するなど、バブルが崩壊するリスクのあることだ。

 

ジョー・バイデン政権及びFRBは、中期的にインフレ率を高めつつ、当面は市場金利の上昇抑制を目指すだろう。その上で、経済・市場への大きなダメージを回避しながら、財政・金融政策の出口を探るのではないか。この戦略の下では、為替におけるドル安が不可避と言える。

 

バイデン大統領が重視する1兆9千億ドルの追加経済対策が決まれば、一段の市場金利上昇、そしてドル高があるかもしれない。しかしながら、冷静に考えた場合、重要なのは実質金利だ。FRBの金融緩和継続を前提とするなら、期待インフレ率の高まりは、ドル高要因ではなくドル安要因だろう。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『中期ドル安シナリオに変化なし』を参照)。

 

(2021年2月26日)

 

市川 眞一

ピクテ投信投資顧問株式会社 シニア・フェロー

 

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