「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

他人から見ると「現代の高齢者の生き方モデル」

お母様はわたしたちの憧れよ

 

いつ、どのタイミングで妖怪に変貌したのか。生きていることが楽しくて力強く生きようとしているのか。真意を聞いたことがないのでわからないが、とにかく、すごい。

 

もしかして、妖怪は、夫の死を機会に、かぶり続けていたうさぎの着ぐるみを脱ぎ捨てたのか。本当は、とてつもなく強い人なのか。わからないが、本人に聞いて確かめる気もない。

 

妖怪を知る人は口を揃えて母をほめる。

 

「お母様はすばらしいわ。90歳であんなにきれいに丁寧に暮らしている方を見たことがないわ。お母様は、わたしたちの憧れよ。お母様こそ、現代の高齢者の生き方モデルよ」

 

「へえ〜そうですか」と笑ってごまかしながら、心の中で「生き方モデル?いえ、あの方は妖怪ですから」とぼやくわたしだ。

 

妖怪と同じ屋根の下に住む体験をしなければ、母の本当の姿を知ることはなかったので、そういう意味では、貴重な老いの見本を見せてもらっている気がする。

 

誰だって年をとる。望んではいないが、大きな病気をしなければ、わたしも90歳を生きなくてはならないときが来るだろう。今、「わたしも、もうすぐ後期高齢者よ」とふざけて友人たちと話せるのは、まだ、母の年まで20年の余裕があるからにちがいない。

 

しかし、長生きすれば、完全に母と同じ姿になる。そのときわたしは、力強くドアを開けているのだろうか。それとも、ドアノブを回すことさえもしんどくなり、へたっているのだろうか。

 

「ガラガラガラ〜〜」鉄の門を元気に開ける音がする。

 

妖怪さまのお帰りだ。

 

 

 

 

松原 惇子
作家
NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク 代表理事

 

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