他人から見ると「現代の高齢者の生き方モデル」
お母様はわたしたちの憧れよ
いつ、どのタイミングで妖怪に変貌したのか。生きていることが楽しくて力強く生きようとしているのか。真意を聞いたことがないのでわからないが、とにかく、すごい。
もしかして、妖怪は、夫の死を機会に、かぶり続けていたうさぎの着ぐるみを脱ぎ捨てたのか。本当は、とてつもなく強い人なのか。わからないが、本人に聞いて確かめる気もない。
妖怪を知る人は口を揃えて母をほめる。
「お母様はすばらしいわ。90歳であんなにきれいに丁寧に暮らしている方を見たことがないわ。お母様は、わたしたちの憧れよ。お母様こそ、現代の高齢者の生き方モデルよ」
「へえ〜そうですか」と笑ってごまかしながら、心の中で「生き方モデル?いえ、あの方は妖怪ですから」とぼやくわたしだ。
妖怪と同じ屋根の下に住む体験をしなければ、母の本当の姿を知ることはなかったので、そういう意味では、貴重な老いの見本を見せてもらっている気がする。
誰だって年をとる。望んではいないが、大きな病気をしなければ、わたしも90歳を生きなくてはならないときが来るだろう。今、「わたしも、もうすぐ後期高齢者よ」とふざけて友人たちと話せるのは、まだ、母の年まで20年の余裕があるからにちがいない。
しかし、長生きすれば、完全に母と同じ姿になる。そのときわたしは、力強くドアを開けているのだろうか。それとも、ドアノブを回すことさえもしんどくなり、へたっているのだろうか。
「ガラガラガラ〜〜」鉄の門を元気に開ける音がする。
妖怪さまのお帰りだ。
松原 惇子
作家
NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク 代表理事
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