「なんで救急車を呼ぶんだ!」医師と警察官が小競り合いに…

2025年には、65歳以上の人口が国民全体の30%になることが見込まれています。それに加えて、日本社会では後期高齢者の人口増加が最大の課題になっています。見送る家族が高齢者と共に最高の最期を迎えるためにおこなうべきことはどのようなことなのでしょうか。今回は、在宅医療について、実例をもとに解説していきます。

Case1:献身的に介護する息子が漏らした「本音」

当院の患者さんで、70代の母親を40代の息子さんが介護しているご家族がいます。

 

母親は過去に乳がんを経験した以外、大きな病気はありませんが、この5年ほどは認知症の症状が進んでいます。昼夜が逆転し、夜になると元気になって動き回るのですが、足腰やバランス感覚が弱っているためにたびたび転んで骨折し、入退院を繰り返しています。

 

4回目の入院時も、病院では治療後に歩行のリハビリが行われる予定でしたが、私のところに退院後の相談をしにきた息子さんの口から「もうこれ以上(リハビリをしなくて)いいのでは…」という言葉がポロッとこぼれたことがあります。

 

息子さんからすれば、母親が夜中に歩き回れば寝る暇もありませんし、不安定な歩行では常に転倒・骨折のリスクも伴います。国内では以前、徘徊によって電車にはねられて、多額の賠償責任が生じたこともありました。

 

「むしろ、寝たきりでいてくれたほうが助かる」。そんな気持ちが思わず出てしまったのが、先の言葉だと感じました。

 

ですから、すべての人が同じようにリハビリを頑張るのが"正しい"わけではないのです。本人や家族の負担を考えて歩行のリハビリはせず、ベッド上でも食事を安全にとれるように嚥下の訓練だけをする、といった方針があってもいいと思います。

 

治療方針を決める医師もどこかの時点で「年をとって衰えること」やその先の「死」を受け入れ、本人の気持ちや家族の状況なども考慮しながら、もっと柔軟に方針を検討していくことも必要です。

 

日本人に染み付いた「何かあったら救急車」という習慣

高齢期・終末期医療の混乱ということでは、高齢者の救急搬送が急増していることも、大きな社会問題になっています。

 

救急搬送数は自治体によって差はありますが、当院が立地する埼玉県川口市の消防署に年代別の救急搬送数の統計をとってもらったところ、2012年に2万1113件だった搬送数は、2016年に2万3625件に増加していました。

 

わずか4年の間で2512件増加したわけですが、年齢別でみるとこのうち65歳以上の搬送が2325件を占めています。つまり、増加分の93%が65歳以上の高齢者でした。

 

本来、救急搬送の目的は、突然の事故や病気など不測の事態によって生命に危険が迫っている傷病者の元へ駆けつけ、必要な処置を行いながら病院の救急医療へとつなげる、というものです。

 

がんの末期の患者さんや慢性疾患をいくつも抱える高齢者が「急に高熱を出した」とか「意識がおかしい」という場合、それはだんだんと体が弱っていく経過の一つであり、不測の事態でもなんでもありません。

 

しかし、日本では国民全般に「何かあったら救急車」「万一のときは119番」という意識がとても強く、高齢者の容態が変わるたび、すぐに救急車が呼ばれます。

 

医療法人社団弘惠会杉浦医院 理事長

1988年、千葉大学医学部卒業。
千葉県救急医療センターに勤務後、千葉大学医局研修を受け、千葉大学大学院で医学博士号取得。
大宮赤十字病院に勤務し、2003年より医療法人社団弘惠会杉浦医院院長、2004年より同医院理事長。
日本医師会認定産業医、労働衛生コンサルタント取得。埼玉県立大学にて講師を務めている。
大学卒業以来25年にわたり高齢者医療に携わっており、地域医療を充実させるために末期癌患者への在宅医療も行う。
著書に『死ねない老人』(幻冬舎メディアコンサルティング・2017年)がある

著者紹介

連載後悔せず見送るために実践すべき「家族の終活」

続・死ねない老人

続・死ねない老人

杉浦 敏之

幻冬舎メディアコンサルティング

どんな人でも懸命に生きたその先に、必ず死を迎える。 大切な人生の終わりを“つらい最期"にしないために何ができるのか――。 「死」を取り巻く日本の今を取り上げつつ、 自分の最期をどのように考え、誰にどう意思表示…

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