「国境炭素税」の衝撃

欧州、米国は温室効果ガス排出に関し「国境調整制度」への準備を進めている模様だ。ボリス・ジョンソン英国首相は、6月のG7サミットにおいて検討課題とする意向を示している。主なターゲットは中国と見られるが、カーボンプライシングの導入が遅れている日本にとっても、実現すれば影響は大きい。菅義偉政権は、早急なカーボンプライシングの制度設計を迫られるだろう。※投資のプロフェッショナルである機関投資家からも評判のピクテ投信投資顧問株式会社、DEEP INSIGHT。本連載では日々のマーケット情報や政治動向を専門家が読み解き、深く分析・解説します。

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国境調整:欧州、そして米国で具体化が急浮上

2019年12月11日の欧州委員会において、就任したばかりのウルズラ・フォンデアライエン委員長は『EUグリーンニューディール』を発表した。その柱の1つが、温室効果ガス排出枠に関する「国境調整メカニズム」の導入だ。

 

この国境調整は、EU加盟国が排出規制を実施していない国から何かの製品を輸入する場合、EU域内で生産された製品が負担している排出枠購入コストを炭素税として課す制度に他ならない(図表1)。一方、EU域内製品を排出規制未実施の国へ輸出する際は、生産コストに含まれる排出枠の価格を還付する。EUは早期の導入を目指し、今年6月までに制度の具体案を提示する方針だ。

 

出所:各種報道などよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表1]EUが導入を検討する「国境炭素税」の概念 出所:各種報道などよりピクテ投信投資顧問が作成

 

この国境調整は、既に主要国における共通の関心事になりつつある。米国では、与党となった民主党が「国境炭素調整費」の導入を主張した。また、EUを離脱した英国のジョンソン首相も、6月11~13日にコーンワルで開催するG7首脳会議において、議長国として国境調整を提案する意向と報じられている。カーボンプライシングの概念を活用した国境調整は、地球温暖化抑止の切り札の1つと言えるだろう。

ターゲットは中国:しかし日本も「負け組」の可能性

炭素の国境調整が注目される理由は、2つあるのではないか。1つ目は、EUの温室効果ガス排出枠取引市場(EU ETS)における排出枠価格の高騰だ(図表2)。EUは2021年に始まったフェーズ4の排出量について、当初の1990年比40%削減から、55%削減へ大幅に目標を引き上げた。排出量削減のコストは上昇せざるを得ないだろう。


 

期間:2005年〜2021年2月16日 出所:Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成
[図表2]EU-ETSにおける排出枠価格 期間:2005年〜2021年2月16日
出所:Bloombergのデータよりピクテ投信投資顧問が作成

 

EU域内で厳しい規制をクリアするため排出枠を購入すれば、製品価格が上昇する。そこで温室効果ガスの排出削減が進んでいない国からの輸入が増えた場合、EU域内の事業者が不利になる上、世界全体で見ると排出量は減らない。

 

2つ目の理由は、国際的な排出削減の枠組みは、先進国と新興国の対立で決着に時間を要し、結論は折衷案になりがちだ。しかし、国境調整であれば、事実上、主要国主導で新興国に温室効果ガスの削減を迫ることができる。欧州、そして米国が中国をターゲットとしていることは想像に難くない。

 

当然、中国は激しく反発するだろう。また、WTOルールとの整合性を採る必要もあり、国境調整の導入は容易ではないと見られる。ただし、欧州、米国ともに積極的な連携を図ることで、ルール化を目指すのではないか。

 

日本はカーボンプライシングの導入で出遅れた。ここで巻き返しを図らないと、中国と同じく国境調整の「負け組」になりかねない。菅政権の指導力と外交力が問われるだろう。

 

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「国境炭素税」の衝撃』を参照)。

 

(2021年2月19日)

 

市川 眞一

ピクテ投信投資顧問株式会社 シニア・フェロー

 

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ピクテ投信投資顧問株式会社 シニア・フェロー

日系証券の系列投信会社でファンドマネージャーなどを経て、1994年以降、フランス系、スイス系2つの証券にてストラテジスト。この間、内閣官房構造改革特区評価委員、規制・制度改革推進委員会委員、行政刷新会議事業仕分け評価者など公職を多数歴任。
著書に『政策論争のデタラメ』、『中国のジレンマ 日米のリスク』(いずれも新潮社)、『あなたはアベノミクスで幸せになれるか?』(日本経済新聞出版社)など。
2011年6月よりテレビ東京『ワールドビジネスサテライト(WBS)』レギュラー・コメンテーター。

著者紹介

ピクテは1805年、スイス、ジュネーブにおいて会社創設以来、一貫して資産運用サービスに従事し、運用サービスに特化したビシネスモデルを展開してまいりました。信用格付ではフィッチ・レーティングスからAA-の格付けを取得しております(2018年5月末現在)。注:上記の格付はピクテ・グループの銀行部門の債務の信用に対するもので、運用部門や運用能力に関するものではありません

1981年、日本経済や株式市場の調査を目的に東京事務所を設立しました。その後、1987年から機関投資家を対象とした資産運用サービス業務を開始、1997年には投資信託業務に参入し、運用資産総額は1.98兆円となっています(2018年12月末現在)。外資系運用機関の大手の一角として、特色ある資産運用サービスをお届けしております。

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