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国境調整:欧州、そして米国で具体化が急浮上
2019年12月11日の欧州委員会において、就任したばかりのウルズラ・フォンデアライエン委員長は『EUグリーンニューディール』を発表した。その柱の1つが、温室効果ガス排出枠に関する「国境調整メカニズム」の導入だ。
この国境調整は、EU加盟国が排出規制を実施していない国から何かの製品を輸入する場合、EU域内で生産された製品が負担している排出枠購入コストを炭素税として課す制度に他ならない(図表1)。一方、EU域内製品を排出規制未実施の国へ輸出する際は、生産コストに含まれる排出枠の価格を還付する。EUは早期の導入を目指し、今年6月までに制度の具体案を提示する方針だ。

この国境調整は、既に主要国における共通の関心事になりつつある。米国では、与党となった民主党が「国境炭素調整費」の導入を主張した。また、EUを離脱した英国のジョンソン首相も、6月11~13日にコーンワルで開催するG7首脳会議において、議長国として国境調整を提案する意向と報じられている。カーボンプライシングの概念を活用した国境調整は、地球温暖化抑止の切り札の1つと言えるだろう。
ターゲットは中国:しかし日本も「負け組」の可能性
炭素の国境調整が注目される理由は、2つあるのではないか。1つ目は、EUの温室効果ガス排出枠取引市場(EU ETS)における排出枠価格の高騰だ(図表2)。EUは2021年に始まったフェーズ4の排出量について、当初の1990年比40%削減から、55%削減へ大幅に目標を引き上げた。排出量削減のコストは上昇せざるを得ないだろう。
EU域内で厳しい規制をクリアするため排出枠を購入すれば、製品価格が上昇する。そこで温室効果ガスの排出削減が進んでいない国からの輸入が増えた場合、EU域内の事業者が不利になる上、世界全体で見ると排出量は減らない。
2つ目の理由は、国際的な排出削減の枠組みは、先進国と新興国の対立で決着に時間を要し、結論は折衷案になりがちだ。しかし、国境調整であれば、事実上、主要国主導で新興国に温室効果ガスの削減を迫ることができる。欧州、そして米国が中国をターゲットとしていることは想像に難くない。
当然、中国は激しく反発するだろう。また、WTOルールとの整合性を採る必要もあり、国境調整の導入は容易ではないと見られる。ただし、欧州、米国ともに積極的な連携を図ることで、ルール化を目指すのではないか。
日本はカーボンプライシングの導入で出遅れた。ここで巻き返しを図らないと、中国と同じく国境調整の「負け組」になりかねない。菅政権の指導力と外交力が問われるだろう。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『「国境炭素税」の衝撃』を参照)。
(2021年2月19日)
市川 眞一
ピクテ投信投資顧問株式会社 シニア・フェロー
日本経済の行方、米国株式市場、新NISA、オルタナティブ投資…
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