第一の理由として、対象となる財産が多種多様であることが挙げられます。
現預金だけならば額の把握も分割も簡単ですが、不動産ほか、有価証券、車、ゴルフ会員権、書画骨董など。モノによって評価法もさまざまです。また、プラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産が遺されることもあります。これらをどう引き継ぎ、公平感を持って分けていくかは一筋縄ではいきません。
第二に、財産を受け取る側の事情が挙げられます。現在の生活がどうなのか。将来のライフプランをどう描いているのか。経済事情や子どもの年齢などによっても、遺産相続に対する考え方は違ってくるでしょう。
第三には、一番厄介な問題として、過去の因縁などが合意の障壁となるケースも少なくありません。
相続は「感情」と「勘定」を抜きには進まない
筆者が関わった事例で、家業を継ぐ姉に多めに財産を配分した父の遺言に、もう一人の相続人である妹がどうしても納得してくれないことがありました。
じっくりと話を聞いていくと、彼女は重い口を開き、こう言うのです。
「私は洋服でも、文房具でも、ずっとお姉ちゃんのお下がりばかりで、正直不満だった。なのに唯一、買ってもらったお気に入りのブラウスをお姉ちゃんに貸したら、ずっと返してくれなかったんです。そのことをきちんと謝ってほしい…」
「そんなことで!?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。確かに第三者から見れば、なんとも他愛のないことのようですが、本人にとっては、ノドに引っかかった骨のように、ずっと忘れられない心の傷だったのです。
また、両親のどちらかが健在の場合は、まだ親の求心力でなんとかまとまった話が、一人親から子供への二次相続ともなると、配偶者やその子どもも加わり、まさに三つ巴での争いに発展するケースもあります。そう、相続はまさに"感情と勘定の交差点"。
だからこそ、遺産分割対策においては、被相続人本人の思い、家族全員の将来に向けての考えをシェアし、現在の生活スタイルにも配慮しつつ、親の意思を示す遺言などで、事前に手当てをしておくことが肝要なのです。
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