東大医学部が「医師国家試験」の合格率55位の理由
鳥集 これは大きな地殻変動ですよね。協議会のHPを見る限り、研修医の大学病院離れはどんどん進んでいます。ただし、彼らがそのまま研修先の病院にとどまるとは限りません。2年間の初期研修を終えた後は、自分で決めた専門分野で学ぶために同じ病院や他の病院で専門的な後期研修を受ける者もいれば、大学院生として出身大学や有名大学の医局に入り直して、博士号を取るための研究を行う医師もいます。
とはいえ、徐々にではありますが、こうしてバラエティに富んだ研修医の存在が、相撲部屋然としていた医局制度のあり方に風穴を開けていくことは間違いありません。
和田 新制度の施行以来、大学の医局は慢性的な人手不足に悩まされています。今、ほとんどの大学病院で研修医は定員割れです。東大病院も定員割れですよ。
さらに東大病院においては、2019年度のデータを見ると、大学病院における自大学出身者の比率が2割程度ととても低いことがわかります。先の役人の言葉を借りれば、「この情報化時代に、大学の名前にあぐらをかいてはいけない」ということでしょう。
その一方で、たとえば、千葉の鴨川という、決して都会とは言えない立地の亀田総合病院*の倍率は、毎年2倍前後になっています。臨床をちゃんとやっている病院には、研修医はちゃんと集まるのです。いずれ患者の集まり具合も、単なるブランド志向ではなく、同じように変わっていくことでしょう。亀田総合病院の外来の待合室の賑わいを覗けば、もはやそういう流れになっていることがわかります。くだらない病院ランキングより、研修医の集まり具合を見るほうが、臨床の質がわかると思います。
◆亀田総合病院
1948 年設立。千葉県鴨川市を中心に、各地に展開する亀田メディカルセンターの中核として機能する私立病院。95年より世界に先駆けて電子カルテシステムの本格運用を開始するなど、時代に先駆けた取り組みをすることで知られる。
東大医学部が、国家試験の合格率55位の謎
鳥集 教授の支配力が弱まったとはいえ、医局講座制による権力構造が完全に崩れるのは、まだまだ時間がかかるでしょう。しかし伝統校を出なくても、本人の努力次第で、就職差別的な医局の壁を打ち破れる可能性が出てきたのは事実です。今後、医師は「どこの大学を出たか」ではなく、臨床技術や研究者としての実力で評価される傾向がより強くなるでしょう。
それに関連することですが、私は、2019年文春オンラインに、〈なぜ日本最難関の東大医学部が、医師国家試験*で合格率「55位」なのか〉という記事を書きました。
全大学・全学部のなかで最高の英才たちが集まる東大医学部の合格率が全国平均と同じ、普通レベルになってしまうのです。順位も中の下で55位。受験が最も得意なはずの東大医学部の人たちは何をしているのだろう? どうして国試ではこんなにもふるわないのだろう? と誰もが不思議に思うでしょう。それには、いろいろな理由が考えられると思います。
まず、東大をはじめとする旧七帝大*のような伝統ある大学では、国試対策の授業やテストをほとんど行いません。旧七帝大は事実上、医学研究者や教育者、学会リーダーの育成機関としての役割を担ってきました。なので、国試を前提とした教育には力を入れてこなかったのです。
現役時代から国試予備校に通うような人も、プライドの高い旧七帝大の学生では少ないはずです。そんな予備校に通わなくても、自分の力で受かるはずだと思っているでしょうから。つまり、ほとんど自助努力で国試に挑むことになるために、一定数が落ちてしまうと考えられます。
和田 さらに言えば、旧七帝大は伝統という名のプライドからか、カリキュラム自体が旧態依然としているところがあります。偉い教授の意向を反映しがちなので、授業内容にその教授の専門分野だけというような偏りが出るのです。アメリカではかなり統一したカリキュラムがあります。日本でもコア・カリキュラム(以下コアカリ)ができましたが、アメリカのものと比べるとまだまだだと感じます。
◆医師国家試験
医師になるためには、医師国家試験をパスし、厚生労働大臣から医師としての免許を受ける必要がある。医師国家試験に合格すると、医籍に登録されて、医師免許証が交付される。
◆旧七帝大
旧七帝大とは、戦前、日本の国立総合大学だった北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の7校をまとめた大学群のこと。旧帝國大学、七帝大などの呼ばれ方をしている