「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母親が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。日本の高齢化は進み、高齢者と後期高齢者という家族構成が珍しくなくなってきた。老いと死、そして生きることを考えていきます。本連載は松原惇子著は『母の老い方観察記録』(海竜社)を抜粋し、再編集したものです。

はじめてのひとり暮らしはつらかったのか

水木さんは、わたしが見たテレビで豪快に笑っていたときから、少しして亡くなられた。思い出すと、生きていらっしゃるうちからすでに妖怪だった気がする。水木さんはずっと生も死もない世界で生きていたのではないだろうか。

 

人間は老いると、人間から妖怪になる。そう気づかせてくれたのは、他でもない大好きな水木しげるさんだ。彼はきっと、今ごろ、大好きなお酒と牛肉で本物の妖怪たちと楽しく宴を繰り広げているにちがいない。

 

母、はじめてのひとり暮らし

 

父が亡くなってから、母は、生涯で初めてのひとり暮らしとなった。昔の人なので、夫の世話をすることを生きがいとして生きてきた人だ。しかし、もう自慢の料理の腕を振るう相手もいない。今日の出来事を話しながら笑う相手もいない。

 

わたしは20歳から家を出ているので、相手がいなくてもというか、むしろ相手がいる煩わしさの方が強いが、母のように20歳で見合い結婚をし、夫いちずで暮らしてきた昔の人は、誰かと一緒にいる生活が普通だろう。

 

おそらく、父が亡くなったあとは、突然、ひとりぼっちになりつらかったにちがいない。でも、実際には、元気に暮らしているように見えたので、わたしも弟も安心していた。

 

わたしが実家に帰るのは、多くて月に1度ほど。それも母の手作り絶品料理を食べたくて行き、食べ終わると、「じゃあね」。

 

近くに住む弟は、一週間に一度のペースで顔を出していたようなので、それでいいと思っていた。なぜなら、母は80歳を過ぎたというのに、自転車に乗っているほどアクティブだったからだ。

 

 

 

 

松原 惇子
作家
NPO法人SSS(スリーエス)ネットワーク 代表理事

 

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母の老い方観察記録

母の老い方観察記録

松原 惇子

海竜社

『女が家を買うとき』(文藝春秋)で世に出た著者が、「家に帰ったとき」あることに気づいた。50年ぶりにともに暮らすことになった母が、どうも妖怪じみて見える。92歳にしては元気すぎるのだ。 おしゃれ大好き、お出かけ大好…

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