バイデン政権始動、議会は対立が深刻化
1月20日、バイデン新大統領は無事、就任式を終えた。
1月6日には、バイデン当選を認めないと抗議するトランプ前大統領支持のデモ隊が、米議会議事堂に不法に侵入して、一時占拠するという異常な出来事も起った。そのため、ワシントンが緊張に包まれた異様な雰囲気の中での就任式となった。
バイデン新大統領は、就任後、早速、17もの大統領令に署名、ほとんどがトランプ政権の政策を覆すもので、パリ協定への復帰や移民政策の転換、ガスパイプラインの建設差し止めと政権の色をはっきりと打ち出すものだった。
足元の経済状況は芳しいとは言えない。昨年12月より、失業率の改善ペースは足踏みとなり、再度のロックダウンが雇用市場に与える影響が色濃くなってきている。これを受けて、バイデン大統領は早期に1.9兆ドル規模の追加経済対策法案を通すよう議会に求めた。しかし、選挙前から激しい主導権争いを演じる共和党と民主党は、マコネル上院共和党院内総務らを中心に、徹底して財政支出を増やさないよう歯止めをかけようとしている。
結局、1月中は議会での議論は進まず、1.9兆ドルの民主党案に対し、共和党の上院議員10人が0.6兆ドルの対案を示し、両党間には大幅な開きがあることが明らかとなった。バイデン大統領は協議には応じる意向を示し、超党派での議案作りの動きも見られるが、議会での混沌とした状況からは、早期の決着は困難であることを懸念させる。
早期の追加経済対策成立を目指すバイデン政権と民主党に対し、共和党の態度は固く、新政権は早速困難な状況に直面している。
1月6日のジョージア州上院補選で民主党が2議席を確保したときには、ブルーウエーブ(民主党のホワイトハウスと議会上下両院対数の奪取)により政権運営は容易となり、財政政策では民主党主導のバラマキ型に転換することが期待されたが、現実にはそうなっていない。バイデン政権の財政政策積極化からリスクオン要因となるかについては意見が分かれ始めていることには注意が必要だろう。
なお、民主党は、両院で経済対策を速やかに可決することが可能になるよう、追加経済対策を予算措置として提出。バイデン大統領も、共和党の一部議員との対話は続けるとしながらも、大規模な追加経済対策の成立を目指している。
ワクチン接種の遅れによる経済への影響は
ワクチン接種の早期化には期待が高まっている。しかし、ワクチン製造や配送の遅延、必要な機器の調達・配備の遅れなど、複雑な問題を解きほぐせず、ワクチン接種が始まった英国や米国でも接種は計画比で進んでいるとは言えないことも現実である。今年の世界経済は、国際通貨基金(IMF)の予想もそうだが、ワクチン普及のスピードに依存することになろう。
IMFは1月26日に最新の世界経済見通し(WEO)を更新した。IMFは2021年の世界経済成長率見通しを5.5%成長と予測し、前回の昨年10月の予測から0.3%、成長率を上方修正した。
理由としては、新型コロナウイルスの第二波の感染拡大による影響はあるものの、ワクチンが実用化段階に至ったことや、主要国で追加経済対策が相次いで打ち出されたことで、世界的な需要は2020年後半では懸念したほど弱まらなかったことを挙げている。
このままの需要安定が続けば、世界経済が成長軌道に回帰し、2021年は成長が加速すると予想しているというわけである。なお、2020年の世界経済成長率の実績については、▲3.5%で着地したと推定した。前回見通しから0.9%上方修正した。
今回の見通しは、先進国と一部新興国で21年夏までに、ほぼすべての国で2022年後半までに新型コロナウイルスのワクチンが普及することを前提にしている。そのため、1月の段階では感染再拡大の状況やワクチンの普及ペースに左右される可能性が見極められておらず、「大きな不確実性」が残るとしている。
先行きリスクとして、ワクチン普及が想定以上に順調に進んだ場合は21年の世界経済成長率が約0.75%押し上げられる一方、ワクチン普及が停滞したり、感染再拡大が深刻化したりした場合は約0.75%押し下げられることをリスクシナリオとして示した。
ワクチン接種は、12月から英米で開始されているが、ワクチンの製造に加えて、配送や管理、接種方法の徹底などの課題も浮き彫りになってきている。世界的にワクチン接種が進むには、相当な時間を要するシナリオも十分にありうるだろう。
中国経済は順調だが…世界経済は損失規模が22兆ドル?
国・地域別見通しでは、新型コロナウイルスの感染者数や死者数で世界最多の米国が、追加経済対策による景気下支え効果とワクチン接種の開始により、2021年の成長率では5.1%と前回見通しから2.0%上方修正された。日本も、大型3次補正予算を見込んで、2021年の成長率は3.1%と前回から0.8%上方修正された。
強力な政府支援策を発動し2020年には+2.3%成長を達成した中国経済は2020年第4四半期にはコロナ禍以前の経済成長軌道に復帰したと評価した。
ただ、2021年中に景気回復の軌道に戻ることができるのは先進国と一部の新興国に限られるという厳しい現実も、予想には含まれている。ほとんどの新興国では、ワクチン接種までには時間を要し、150カ国以上が新型コロナ前の19年の経済水準を下回ると予想されている。
このため世界経済全体では、経済損失規模は2020~2025年の累積で22兆ドルに達するとの試算を示した。今後、先進国と中国を除く新興・途上国との間では、ワクチンの普及ペースや財政出動余力の格差から、景気回復までの時間軸にかなりのバラツキが生じると指摘した。
世界経済の堅調な回復に向けては、ワクチン普及や途上国の債務軽減などについて「国際社会の協調が不可欠」となり、国際社会でも格差が拡大するリスクがあると訴えた。先進国でも急増した債務をどう解消に向かわせるかは大きな課題であるが、コロナ禍で世界的に膨張した債務をどう処理していくかは、コロナ禍の大きな傷跡の一つとして世界経済にのしかかるだろう。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO