コロナパニックのなか唯一プラス成長を確保した中国
■中国GDP伸び率は2020年通年で前年比2.3%増加
中国国家統計局が1月18日に発表した2020年第4四半期の国内総生産GDPは前年同期比6.5%の増加だった。前期比では2.6%の増加だった。2020年通年では前年比2.3%増加となり、新型コロナウイルスの感染により経済的な負の影響を受けるなか、主要国で唯一、中国経済はプラス成長を確保した。2020年間での固定資産投資は前年比2.9%増加で11月までの累計の(前年同期間比)2.5%増加から伸びが上乗せされた。
鉱工業生産(12月)は前年同月比7.3%増加で9ヵ月連続で増加となった。11月は7.0%増だった。製造業では輸出が好調に転じたことを背景に持続的な回復が続いている。小売売上高(12月)は前年同月比4.6%増加となり、11月の5.0%増加からは伸びがやや鈍ったものの、回復基調に疑いはない。主要国のなかでは、異例の存在であることを改めて知らしめている。
足元のリスクは、やはり春節の人々の移動が今後のコロナ感染に影響するかということと、感染抑制に関連したロックダウン措置であろう。中国の当局は、中国がコロナウイルスを抑制してきた経験と能力が備わっており、コロナ禍による中国経済への悪影響は制御可能なものにとどまるとの見方を堅持している。
下水までチェック…中国「感染防止」の知られざる裏側
感染の再拡大阻止のために、当局が取る措置は大変厳しい。
1月下旬に、中国本土で確認された新規感染者は100人/日の水準だったが、感染増加が確認され、その傾向が著しいと判断されると、衛生当局は厳しい行動規制と住民への検査を義務付ける。数万人単位の規模で、隔離措置や検査結果が出るまで地域を封鎖することは珍しくなく、その徹底ぶりは、他国には例を見ないものであろう。
香港も同様だが、下水のウイルス検査まで実施され、感染者が出た地区は、一時的なロックダウン措置と強制検査がいち早く判断され命令される。加えて、海外からの渡航者には21日間の医学的な隔離措置が取られることからも、その厳しさは伺い知れるとおりである。ただ、感染が拡大して、こうした制限措置の規模が広がれば経済への影響は不可避となろう。
2020年に取った規制緩和や金融緩和、財政出動などの政策は、中国国内の需要増加を支援し、経済諸条件の改善を下支えしている。しかし、経済成長率が前々年並みの水準に戻ったことから、こうした政策の継続性については、やや注意を払う必要があるのではないかと筆者は考えている。従って、欧米経済のように足元の弱い経済状況がさらに追加の経済対策を促すという期待感に溢れた相場とは異なり、中国当局の動向には注意を払うべきだと考えている。
バブル懸念か?春節前に「資金吸収」の異常事態
そういう意味で注目したいと考えているのは、金融政策ではないだろうか。
1月26日、中国人民銀行は、短期金融市場で資金吸収オペ(公開市場操作)を実施した。それにより短期金利が急上昇する事態につながった。人民銀行は、さらに26日から28日にも、過去最大の規模で資金吸収を行い、これにより、市場では株式相場や不動産市況の加熱によるバブル発生を抑制するために、人民銀行が金融政策のスタンスを引き締めに転換したのではないかとの疑念が台頭した。
春節の休暇入り前には、現金需要が短期金融市場を圧迫し、金利の急上昇につながることがよく発生する。通常なら中央銀行は、一時的な資金のひっ迫に対して追加資金を供給して、市場を落ち着かせるものである。
しかし今回は、これまでだぶつき気味だった短期資金市場で資金吸収まで実施した。市場が勘ぐるように、万が一、超緩和的な姿勢を貫いてきた金融政策を中立化することに舵を切ったとすれば、ほかの政策も含め、政策の転換を読み込んでいく相場に変わる可能性があろう。そうなると相場への影響は大きく、気をつけたほうがよさそうである。これは、まさに欧米市場でのテーパリングの議論に類似する構図である。
今回の資金吸収オペは、人民銀行が市場の反応を見極めるために観測気球を上げたものと筆者は見ている。まだ、政策転換のタイミングとは受け止めていないが、経済成長が軌道に乗ってきた中国にとっては、その時は案外近いのかもしれない。
長谷川 建一
Nippon Wealth Limited, a Restricted Licence Bank(NWB/日本ウェルス) CIO