生涯収入「約4億円」でも想像以上に厳しい老後
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、医師の平均年収は1200万円前後で、これを生涯収入に換算すると約4億円になります。一般サラリーマンの生涯年収約1.5億円と比較すると、その差はなんと2倍以上です。
「これだけ高収入なら将来も安泰」と誰もが思うでしょう。しかしこれだけの収入を得ていても、医師の老後事情は意外と厳しいのです。
総務省の「家計調査」によると、医師をはじめとする高額所得者の生活費は月額80万円以上、年換算で1000万円近く浪費していることになります。加えて将来のクリニック開業準備や、子どもの医学部進学に要する教育費もかさむため、老後のための貯蓄が思いのほかできません。
退職金に頼る手もありますが、個人事業主である開業医に退職金はありませんし、勤務医であっても就業先の医療機関によっては退職金制度がないところも少なくありません。幸い就業先に退職金制度があったとしても、支給額は勤続年数に応じて1000万円から2000万円程度で一般サラリーマンと同等、またはそれ以下の場合もあります。
高齢夫婦の平均生活費「月26万円」にも満たない年金額
退職金に期待できないとなれば、次なる頼みの綱は「年金」です。勤務医であれば一般サラリーマンと同様に厚生年金へ加入していますし、開業医なら国民年金に加入することになります。また日本医師会の会員になれば、医師年金への加入も可能です。それでは、この3つの年金からどのくらいの支給が得られるのか、勤務医・開業医別に検証してみましょう。
●勤務医の年金支給額(35歳・年収1200万円の場合)
厚生年金(国民年金含む):20~60歳(満期)納付で、65歳から月額19.8万円支給
●開業医の年金支給額(40歳まで勤務医・年収1200万円)
厚生年金(国民年金含む):20~40歳まで納付で、65歳から月額約6.7万円支給
国民年金のみ:41~60歳まで納付で、65歳から月額約6.4万円支給
●勤務医・開業医共通(年収に関係なく一律)
医師年金(基本年金のみ):35年間納付で、65歳から月額2.21万円支給
※医師年金は基本年金のほか、加算年金を掛けることもできます。
家計調査によると、一般的な高齢夫婦の生活費は月額26万円前後です。そうなると、勤務医の年金月額支給額(厚生年金19.8万円+医師年金2.21万円)約22万円では足りません。開業医に至ってはさらに厳しく、約15万円(厚生年金6.7万円+国民年金6.4万円+医師年金2.21万円)程度なので論外です。
貯蓄と年金だけなら、老後生活費は月額33~40万円
勤務医も開業医も、年金で賄えない生活費不足分は別の手段で補填しなくてはなりません。まず思いつくのは貯蓄です。では、退職を控えた医師の貯蓄額はどのくらいなのでしょう?
家計調査では、50歳代医師(年収1300万円前後)の貯蓄額は2400万円程度となっています。この50歳代医師が年収から年間生活費1000万円を差し引いた300万円を貯蓄し続けた場合、10年後には貯蓄総額が5400万円になります。この段階で退職し、80歳代まで貯蓄のみで暮らした場合、1ヵ月の生活費は30万円まで捻出できます。
しかし平均寿命は年々伸びていますから、90歳代まで暮らすことを想定して18万円程度まで抑えた方がよさそうです。
その結果、貯蓄と年金を併せた1ヵ月の生活費は、勤務医の場合は約40万円、開業医の場合は約33万円になります。前出の一般的な高齢夫婦の生活費(26万円)は上回りますが、エンゲル係数のひときわ高い医師家庭ですから、この金額で満足できるとは思えません。
引退後、生活費は半分以下に…40歳台の資産形成が勝負
医師は老後、少なくとも月額33~40万円程度の生活費を確保できることがわかりました。贅沢をしなければ何とか暮らしていける金額ですが、現役時代の生活費(月額80万円以上)と比べたら、生活レベルが劇的に落ちることは必至です。さらに子どもがまだ医学部在学中であれば、家計はよりひっ迫します。私学であれば6年間で3000万円前後の学費がかかり、一人前の医師になるまでは何かにつけて親のサポートが必要になります。そういった諸費用も準備しておく必要があります。
30歳台の独身時代は勤務医としてしゃかりきに働き、貯蓄はするものの自由になるお金もたくさんあるので浪費が許されます。しかし40歳台になったら結婚して子どもができ、家族のための負担が増え、貯蓄も浪費もままならなくなります。そろそろ開業も考え始めなければならない時期です。「30歳台にもう少し貯蓄していれば…」と後悔しても後の祭りです。今ある資産をいかに活用していくかを考えていきましょう。
医師と不動産投資は極めて親和性が高いことをご存じでしょうか? 資産運用を考える場合、株式投資などの比較的少額で取り組める手段を選びがちですが、市場の動き、すなわち資産価値の変動が早いため、日夜多忙な医師には不向きといえます。一方、不動産投資の資産価値は数ヵ月、数年経っても変動幅が小さく、家賃や売買価格も所有者の意向で決めることができます。建物・賃貸管理も専門の管理会社に任せてしまえば、医師は仕事に専念できます。投資用不動産は都心部であっても1000万円台から購入が可能です。預貯金の利率も史上最低レベルの時代です。貯蓄から投資へ、今がシフトチェンジの時です。
大山 一也