ワクチン接種ツアーも「メディカルツーリズム」の一種
現在、新型コロナのワクチン接種を完了した人数が断トツに多いのはアメリカです。アメリカでは、鉄道駅やスーパーマーケット、ドラッグストアといった人々が日常的に利用する施設を接種会場にしているほか、車を降りずに受けられる「ドライブスルー接種」なども取り入れられています。
このようにワクチン接種活動が急ピッチで進められた結果、集団免疫効果が見えはじめたため、海外からの観光客受け入れも再開されました。それに伴い、外国人観光客を対象にした「ワクチン接種ツアー」も企画され、申込者が殺到しているようです。このワクチン接種ツアーもまた、「メディカルツーリズム」の一種といえます。
これまでのメディカルツーリズムはアメリカなどの先進国が主流でしたが、医療費が高額すぎるため一般外国人は治療を受けることができませんでした。しかし近年、劇的に医療技術が向上したアジア諸国において、適正な医療費で外国人患者を受け入れる取り組みがはじまったのです。
日本人医師も参入…アジア諸国のメディカルツーリズム
●シンガポール
シンガポールでは国家ぐるみでメディカルツーリズムを推奨しています。医師不足の解消と高度な医療水準維持のため、外国で取得された医師免許(条件付き)を認めるかたちで、世界各国から優秀な外国人医師を招致しています。ここ数年は日本人医師の数も増えており、日本人医師が常駐するクリニックもいくつかあります。
シンガポールの私立病院では、各専門医は病院内の施設をテナントとして借り受けてクリニックを開業するシステムを取っています。看護師などの医療スタッフは医師が直接雇用しており、運営や診療方針もすべてその医師に委ねられています。つまりこれらの専門医は独立した開業医なのです。
●マレーシア
マレーシアにおけるメディカルツーリズムの魅力は、高い医療技術を比較的安価な治療費で受けられる点にあります。病院を含めたインフラ整備はアジア諸国の中でもトップレベルで、大きな私立病院であれば設備も十分に整っており、外国人も安心して受診できます。加えて、海外旅行傷害保険に加入していればキャッシュレスで受診できます。ほとんどの医師は英語を話し、中には日本人スタッフや日本語での診療が可能な医師が勤務している私立病院もあります。
●インドネシア
インドネシアでは、私立病院であれば近代的な施設も整っており、医師をはじめ医療スタッフに日本人がいるなどメディカルツーリズムの拠点として安心感があります。しかし医療体制の地域格差が大きく、ケガ(交通事故、マリンスポーツ、登山)、熱中症、脱水症、経口感染症(下痢、肝炎など)、デング熱、皮膚疾患など、さらに致命的な感染症である狂犬病には十分に対応できない病院もあります。大都市の医師数は増加していますが、地方・郡部ではまだまだ医師不足の状態です。一般に国公立病院は混雑しており、外国人の利用は慣れないと難しいでしょう。
●タイ
首都・バンコクにある私立病院の医療水準はかなり高く、日本の病院と比較しても遜色はないといえます。それらの病院では、日本の医学部を卒業した医師、あるいは日本の病院で研修経験のある医師または看護師などが勤務しています。また日本語通訳(日本人またはタイ人)が勤務し、専用窓口を設けるなど、日本人受診者の便宜を図っています。
しかし、私立病院では診察料・治療費などは各々の病院が独自に定めており、全般に日本と比べて安価とはいえません。支払い時のトラブルを避けるためにも、事前に料金などを確認するか、または海外旅行傷害保険などの保険が適用されるか確認することが必要です。
不動産投資は「グローバルな視野」を得る方法の1つ
最近のスポーツ・科学・美術といった分野での日本人のグローバルな活躍は目を見張るものがありますが、一方で、日本人医師が世界で活躍しているという話はあまり聞きません。その間に成長著しいアジアの国々は、積極的に世界展開を図り、日本との差を縮めています。その施策の一つが、外国人が最先端医療を受けることができるメディカルツーリズムなのです。
流暢な英語を話しアメリカなどの最先端医療を学んだ医師が、現地の安い人件費や医療費を活用し、英語圏の患者を治療する。このシステムが近年大当たりし、シンガポールやタイでは国際的病院評価認証機関(JCI)の認証を受けた医療機関の数が、日本をはるかに上回っています。日本の医師がグローバルに活躍するのは、夢のまた夢なのでしょうか?
日本はかつて製造業で世界を席巻しました。医療分野でもそれは可能なはずです。そのためには、一人でも多くの日本人医師が、世界の医療の良いところも悪いところも実際に見て歩くことが必要です。
海外不動産投資は、医療に関するグローバルな視野を持つきっかけとなってくれます。今はまだ気軽に海外へ出かけることはできませんが、この状況が永遠に続くわけではありません。世界で活躍できる医師を目指すならば、未来の自分を描く材料として、海外不動産投資に取り組んでみるのはいかがでしょうか。
大山 一也