「アイスクリームが食べたい」父の一言に心残り
エピソード
インフォームドコンセントは、主治医の都合に合わせることが多いのですが、夕方何時以降、土曜日など希望は聞いてもらえました。片方の親がいても高齢になっている場合は、ひとりで対応させず、自分の予定がつかなくても、ほかの家族(大学生の子どもなどに頼んだことも)が同席して必ずふたり以上で聞くようにしています。
父の死に関して、インフォームドコンセントにひとりで対応したことで、今でも後悔していることがあるからです。父が高熱を出しているとケアマネージャーから連絡をもらい、仕事から帰宅後、車で駆けつけました。そのとき、静岡の主治医よりふたりで生活するには限界と忠告を受けました。
すぐに私の住む川崎へと一緒に連れて戻るのですが、いろいろと準備に時間もとられ午前3時、真夜中の移動でした。父が「アイスクリームが食べたい」と言ったのですが、東名高速で向かう途中のサービスエリアも閉まっています。「わがまま言わないで」とそのままになりました。
朝になり、家にあったゼリーを食べさせてすぐに病院へ。体力が衰えていた父は肺炎を発症していたのです。腕の血管に限界を感じ、鎖骨下の血管に点滴用のポートを埋め込むことへの提案と同意を求められました。口から食べ物がとりにくくなっていたので、これしか選択はなかったのかもしれません。この方法を選択しても回復すれば点滴は外せますが、父の場合は、明らかに日に日に弱くなっていきました。
もう口から食べ物をとれなくなるのだな、家に連れて帰ることは難しくなるのだなと直感しました。父の所に寄って「治ったら、一緒に暮らそう」と声をかけました。「一緒に暮らすのか」とポツンと言い、笑って目を閉じた父のことが頭に残り涙が止まりません。寿命といえばそれまでですが、父は入院後1か月もたたずに息を引き取りました。
私はそのとき、セカンドオピニオンなど頭にもなかったのです。アイスクリームを食べさせてあげたかった。父の7回忌が終わっても、いつまでも心残りな出来事です。「ごめんなさい、お父さん」と、あの世で一言伝えたいと思っています。
渋澤 和世
在宅介護エキスパート協会 代表
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