●日銀はコロナ・ショック前後の株価変動を受け、ETFの買い入れ額を柔軟に調整した上で対処した。
●ここ1年は、TOPIXの前場終値が前日終値から0.5%下落するとETF買い入れを実施する傾向。
●3月に買い入れ目標額撤廃なら、株式市場が安定的に推移する限り、買い入れの頻度は低下も。
日銀はコロナ・ショック前後の株価変動を受け、ETFの買い入れ額を柔軟に調整した上で対処した
今回のレポートでは、日銀によるETFの買い入れについて、最近の動向を検証します。日銀はこれまで、東証株価指数(TOPIX)の前場の終値が前日の終値から一定程度下落した日に、ETFの買い入れを行ってきました。そこで、2020年1月6日から2021年1月12日までの期間について、コロナ・ショックで株式市場が大きく混乱した際、日銀がどのようにETFの買い入れを実施したのか、具体的にみていきます。
まず、買い入れ額に注目すると、2020年1月時点で1回の買い入れ額は702億円でしたが、コロナ・ショックを受け、その後、段階的に増加しました。3月16日に開催された金融政策決定会合で、ETFの買い入れ増額が決定されると、3月下旬には2,004億円まで膨れ上がりました。その後、株式市場が落ち着きを取り戻すにつれ、買い入れ額も徐々に減少し、直近では501億円となっています。
ここ1年は、TOPIXの前場終値が前日終値から0.5%下落するとETF買い入れを実施する傾向
次に、ETF買い入れのタイミングを確認します。検証の結果、日銀は、2020年1月6日から2021年1月12日までの期間、TOPIXの前場の終値が、前日の終値から0.5048%以上、下落すると、ETFを買い入れる傾向があることが分かりました(図表)。
ただ、いくつか例外もあり、例えば0.5048%よりも小さい下落率で買い入れを実施した日は7回ありました。これは、株価が連日下落するなど、地合いの悪化が判断に影響したと推測されます。
また、TOPIXの前場の終値が、前日の終値から上昇しても、買い入れを実施した日が3回ありました。具体的には、3月2日、17日、19日の3回ですが、いずれも買い入れ額が大幅に増額された日です(2日は703億円から1,002億円、17日は1,002億円から1,204億円、19日は1,204億円から2,004億円)。3月は株価が急落した時期であり、株価を押し上げたいという、日銀の強い意志が感じられます。
3月に買い入れ目標額撤廃なら、株式市場が安定的に推移する限り、買い入れの頻度は低下も
日銀は、株式市場のリスクプレミアムに働きかけるため、ETFの買い入れを行っていますが、すでに足元では日経平均株価が28,000円台を回復し、リスクプレミアム拡大に対する懸念は相当後退したものと考えられます。黒田東彦総裁は2020年11月18日、衆院財務金融委員会で、ETFの買い入れについて、リスクプレミアムが拡大しない状況になれば、大量に買い入れる必要はないと述べた一方、金融緩和策の一環であり、当面は必要な政策との考え方を示しました。
なお、日銀は現在、金融政策を点検しており、その結果を、2021年3月に公表する見通しです。弊社では、点検の結果、ETFの買い入れについて、目標金額(年間約12兆円相当の残高増加ペースが上限)を撤廃もしくは目安とした上で、いっそう柔軟な買い入れを行う方針が示される公算が大きいとみています。実際にそうなれば、株式市場が安定的に推移する限り、日銀によるETFの買い入れ頻度はかなり低下すると思われます。
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『最近の日銀ETF買い入れ動向』を参照)。
(2021年1月13日)
市川 雅浩
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
チーフマーケットストラテジスト