「共働き」が主流となった現代。寿退社という慣例は廃れ、結婚・出産後も就労を希望する女性がほとんどです。しかし育休や産休の取得率はいまだ十分とはいえず、いわゆる「マタハラ」の被害も絶えません。そのうえ、訴訟しても原告側女性が敗訴するケースが少なくないのです。世代間での認識にも大きな格差がある妊娠・出産と労働の問題について、法的観点から見ていきましょう。※本連載は、上谷さくら弁護士の著書『おとめ六法』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。本連載に掲載する民法は2020年4月施行の改正民法の内容、そのほかの法令は2020年3月時点の内容に基づきます。

マタハラに該当する「不利益な取り扱い」

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<あなたを守る法律>

【男女雇用機会均等法】第9条 婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取り扱いの禁止等

 

3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、または同項もしくは同条第2項の規定による休業をしたこと、その他の妊娠または出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。

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女性は妊娠や出産のために、どうしても仕事を制限しなければならない時期があります。そのために、会社から不利益な取り扱いを受けることを「マタニティ・ハラスメント(マタハラ)」といいます。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

男女雇用機会均等法では、婚姻や妊娠、出産を理由に、労働者を辞めさせることはもちろん、「不利益な取り扱い」をしてはならないと定められています。

 

「不利益な取り扱い」には、不合理な減給や配置転換、降格、契約の更新をしないことなどがあります。

会社は「マタハラに関する相談窓口」を設置する義務

会社には、マタハラに関する相談窓口を設置する義務があります。まずはそちらに相談してみるのもよいでしょう。

 

しかし、会社が動いてくれそうにない、実際に相談しても動いてくれなかった、などの場合には、各都道府県の労働局へ相談し、労働局から職場へ助言や指導を行ってもらう方法があります。

 

それでもしつこく早期の復職を求められた場合や、復職を拒んだ結果、解雇や雇い止めなどの不利益な扱いを受けた場合には、労働局の「あっせん」を利用するか、裁判などを起こさざるをえない場合もあると考えられます。

専門家の助力を得られる無料の制度「あっせん」

あっせんとは、労働者と使用者の間にトラブルが起きたとき、労働問題の専門家等が労働者と職場の双方から話を聞き、話し合いを促したり、解決案(あっせん案)を提示したりする無料の制度です。

 

各都道府県の労働局が行っているものと、労働委員会で行っているものがあります。対象となる事件の種類が限られていますので、各窓口で尋ねてみてください。

 

利用したい場合は、各労働局の総合労働相談コーナーまたは都道府県労働委員会の個別労働紛争担当窓口へ問い合わせてみましょう。

 

ただし、あっせんには法的拘束力がありませんので、職場が応じなければ、裁判等の法的手続きを取らざるをえなくなります。

 

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<関連条文>

【男女雇用機会均等法】第9条(続き)

 

1 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、または出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。

 

2 事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。

 

4 妊娠中の女性労働者および出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。

 

【労働基準法】第65条 産前産後

1 使用者は、6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。

 

2 使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。

 

3 使用者は、妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。

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妊娠を理由とした「雇い止め(契約不更新)」は違法

Q1.「契約社員。妊娠したため、産休を取ると職場に伝えたら、来月予定されていた次の契約更新はしないと言われた。」

 

⇒契約社員で、そもそも雇用期間が数年間とされている場合でも、妊娠を理由とした雇い止め(契約不更新)は禁止されています。職場に対し撤回を求めましょう。

 

出産を控えていると、なかなか身動きが取れず、各都道府県の労働局や弁護士との相談にも行きにくいこともあります。

 

そのような場合には、最低限、職場に対して「雇い止めを了承・承諾しない」という意思表示をしておくことが必要です。手紙やメールでよいです。

 

そのうえで、出産・産褥期を過ぎてから、職場に対し復職や賃金の支払いを求めて交渉や法的措置を考えることになるでしょう。

 

交渉の際、職場側がよく口実にするのは「妊娠を理由にしたのではなく、雇用期間が満了したこと、勤務成績が不良だったことが理由である」ということです。

 

そのため、この説明を覆すような資料を、可能なかぎり準備する必要があります。産休に入る前にあらかじめ、証拠になりそうな書類を確保しておくようにします。証拠になりそうな書類には次のものがあります。

 

●自身の人事評価に関する書類

●仕事の評価が記載されているメール、会話の録音

●契約更新の予定や説明が書かれたメールや書類

 

これらのような書類をそろえたら、まずは職場に対し、以下の点を伝えましょう。

 

●雇い止めを承諾しないこと

●以前と同じ条件で職場に復職させてほしいこと

●復職できない期間の賃金を支払ってほしいこと

 

これに会社が応じないときは、まずは各都道府県の労働局が設けている総合労働相談コーナーへ相談し、労働局から職場に対してあなたを復職させる等の内容の助言・指導をしてもらい、さらには「あっせん」を利用することもできます。「あっせん」に職場が応じなければ、裁判等の法的手続きを取らざるをえなくなります。

「産後1ヵ月で職場復帰を要請」は労働基準法違反

Q2.「出産後、体調がすぐれないのに、産後1ヵ月も経たないうちに、会社から『人手不足なので明日からでも職場復帰してほしい。別の人は出産後1週間くらいで復帰した』と連絡があった。言うとおりに復帰しないとだめ?」

 

⇒会社が出産後1ヵ月で職場復帰を求めるのは、労働基準法違反です。

 

体調がすぐれず勤務が困難であれば、会社にそのことを説明して断りましょう。それでもしつこく復職を求められたり、解雇などの不利益な取り扱いをほのめかすようなことがあったりしたら、各都道府県の労働局が設置している総合労働相談コーナーへ相談することもできます。

 

労働基準法では、出産予定日前6週間以内で労働者が求めた場合と、産後8週間の間には、女性を働かせてはいけないという規定があります(第65条第1項、第2項)。ただし、産後6週間が経過しており、なおかつ本人が希望した場合には、復職をさせてかまわない、とされています。

 

ですので、会社が出産後1ヵ月で職場復帰を求めるのは、労働基準法違反になります。会社から産後8週間が経過する前に職場復帰するよう求められた場合は、当然断ることができます。

 

それでは、早期の職場復帰を断ったときに、会社が「それでは復帰後にポストがなくなる」「そのような人間を会社は求めていない」などと、職場復帰をしないことで不利益になることをちらつかせたらどうでしょうか。

 

この場合には、上記の労働基準法違反に該当するとともに、刑法上の脅迫罪や強要罪にも該当する場合があります。もともと産後8週間以内に職場復帰させることが違法であるうえに、不利益をちらつかせてそれを強要しようとしているのですから、非常に悪質と考えられます。

 

 

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上谷 さくら

弁護士(第一東京弁護士会所属)、犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長

 

 

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おとめ六法

おとめ六法

著者:上谷 さくら

著者:岸本 学

イラスト:Caho

KADOKAWA

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