いわゆる「セクハラ」や「パワハラ」を筆頭に、「マタハラ」や「アルハラ」など様々なハラスメントが認知されるようになった昨今。法制化が進み、企業に防止措置をもとめるよう明文化されたものも少なくありません。その1つに「ジェンダー・ハラスメント」がありますが、セクハラやパワハラ等に比べて理解が浅かったり、無意識に行われたりしている側面が少なくありません。いま一度ジェンダー・ハラスメントについて確認しておきましょう。※本連載は、上谷さくら弁護士の著書『おとめ六法』(KADOKAWA)より一部を抜粋・再編集したものです。本連載に掲載する民法は2020年4月施行の改正民法の内容、そのほかの法令は2020年3月時点の内容に基づきます。

固定観念的な「男性像」「女性像」の押し付けは差別

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<あなたを守る法律>

【男女雇用機会均等法】第6条

事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取り扱いをしてはならない。①労働者の配置、昇進、降格および教育訓練

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「ジェンダー」とは、社会的につくりだされた性別・性差のことです。たとえば、「女性はピンク、男性はブルー」「仕事は男の役目、家事・育児は女の役目」といったものがジェンダーです。生物学的な意味での性別・性差とは意味が異なります。「ジェンダー・ハラスメント」とは、固定的なジェンダー観に基づいて、差別的な取り扱いなどをすることです。

 

たとえば職場なら、次のようなものがあります。

 

●女性にだけ、通常の業務に加えて、お茶くみ、清掃、来客の案内などの業務をさせる

●「男は社会に出て必死で働き、女は家庭に入って、育児をするべきだ」などと、自分のジェンダー観を押しつける発言をする

●男らしさを過度に強調し、力仕事を一方的に負わせる態度や仕草に力強さを求める(「男なのに」「男のくせに」)

●女性だから、と針仕事を押しつける

 

男性から女性に行われるものと限らず、同性間、性的指向や性自認が違う人に対しても行われる可能性があります。

証拠を集めにくい…ジェンダー・ハラスメントの厄介さ

Q1.「職場の暗黙の了解で、女性は売上の大きい重要なクライアントを任せてもらえない。そのため、自分の営業成績はほかの男性社員と比べるとどうしても高くならない。」

 

⇒「女性だから」という理由だけで、その人の実力や適性とは無関係にクライアントを割り振るのは、適切とは考えられません。

 

上司や会社に改善を求めても「性別が理由でなく、適材適所を考えた結果」と弁解されてしまった場合、性別による差別的取り扱いがされていることの証明が困難な場合も考えられます。

 

そのため、普段から上司の発言などを録音・記録したり、他の女性社員の営業成績について情報を集めたりするなど証拠を集めておきましょう。

「セクハラ」と「ジェンダー・ハラスメント」の違い

「セクシュアル・ハラスメント」は、その行為自体に、性的な意味が含まれるものです。たとえば、性行為を求める、身体をさわるなどです。

 

これに対して「ジェンダー・ハラスメント」は、その行為自体にはあまり性的な意味は含まれません。そのため、多くの場合「ジェンダー・ハラスメント」は「セクシュアル・ハラスメント」には該当しません。

 

しかしこのような「ジェンダー・ハラスメント」が会社で起これば、「性別に関係なく実力を評価してもらえる」との期待を裏切るもので、働く意欲を大きく損なうものです。

 

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<関連条文>

労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針(平成18年厚生労働省告示第614号)

 

第2 直接差別

3 配置(業務の配分および権限の付与を含む)(法第6条第1号関係)

 

(2)配置に関し、一の雇用管理区分において、例えば、次に掲げる措置を講ずることは、法第6条第1号により禁止されるものである。ただし、14の(1)のポジティブ・アクションを講ずる場合については、この限りではない。

 

ホ 配置における業務の配分に当たって、男女で異なる取り扱いをすること。

(異なる取り扱いをしていると認められる例)

②男性労働者には通常の業務のみに従事させるが、女性労働者については通常の業務に加え、会議の庶務、お茶くみ、そうじ当番等の雑務を行わせること。

 

【労働安全衛生法】第3条 事業者等の責務

1 事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する施策に協力するようにしなければならない。

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ヒール靴や化粧はマナー?「職場の服装規定」の違法性

Q2.「会社のルールで女性社員はヒールのあるパンプスを履かないといけない。パンプス着用のために外反母趾などになった場合、労災申請を認めてもらうことはできる?」

 

⇒労災と認めてもらえる可能性はあります。ただし、職場でのパンプス着用が外反母趾の原因であることを証明しなければなりません。

 

そのために、普段はパンプスを履いていないこと、足に合ったものを履くよう努力したにもかかわらず外反母趾になったこと、ほかに原因がないことを説明する必要があります。制服のように、会社の支給したパンプスや会社指定のパンプスだった場合などは、労災を認められやすいでしょう。

 

普段から仕事以外でもパンプスを履く機会が多い場合には、労災として認められるかは難しい可能性があります。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

服装規定で、「靴はパンプスのみ」「メガネは禁止」「化粧必須」といったルールが定められている職場があります。

 

足の形に合わないパンプスを長時間履き続けることで、強い痛みに苛まれ、外反母趾や腰痛などの健康被害につながることもあります。これを受け、2019年にはSNS上で「#KuToo運動」が社会の注目を集めました。

 

「#KuToo運動」とは、職場でのパンプス着用の強制をやめるように促す運動です。女性にだけ、健康を害してでもパンプスを強制するのは「女性差別」ではないか、というのが「#KuToo運動」の主張の一つです。

 

靴に限らず、メガネの着用のほか、さまざまな事例についても同じような指摘がなされ、女性に対してだけ、明示的にまたは暗黙に、身なりについて強要されているケースがあるのではないか、との声が上がっています。

 

労働安全衛生法第3条により、事業者は、「快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保する」義務を負っています。職場が女性に健康を害するような靴の着用を強制したり、メガネの着用を禁止したりすることは、この義務に違反していると考えられます。

 

労働安全衛生法第3条に違反しても罰則はありませんが、業務上の指示で労働者にけがをさせた場合は、業務上過失致死傷罪等が適用になる場合はありえます。

 

 

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上谷 さくら

弁護士(第一東京弁護士会所属)、犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長

 

 

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おとめ六法

おとめ六法

著者:上谷 さくら

著者:岸本 学

イラスト:Caho

KADOKAWA

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