妊娠・出産を理由とした「不利益な取り扱い」は違法
女性労働者に対して、会社側が妊娠・出産を理由とした「不利益な取り扱い」を行うことは法律で禁止されています。前回の記事『妊娠・出産を機に「解雇・雇い止め」は違法…撤回させるには?』(関連記事)に引き続き、どのような行為が該当するのかを見ていきましょう。
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<あなたを守る法律>
【男女雇用機会均等法】第9条 婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取り扱いの禁止等
3 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法第65条第1項の規定による休業を請求し、または同項もしくは同条第2項の規定による休業をしたこと、その他の妊娠または出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。
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育休を理由とした「解雇」「不合理な減俸」は違法
Q1.「産休・育休を取得後、職場復帰をする予定。休む前と同じ仕事に戻れると考えていたが、復帰の1ヵ月前に、配置転換になり業務も変わるとの連絡があった。以前は専門知識を生かして企業向けのコンサルタントをしていたが、復帰後は総務部で一般事務とのこと。年棒も大幅に下がるようだ。」
⇒労働者が育休を取得したことを理由に、その人にとって不利益な取り扱いをすることは禁止されています。解雇はもちろん、報酬が下がることも「不利益な取り扱い」です。仕事の内容が変わることについては、それだけではただちに違法とまでは言えませんが、状況によっては「不利益な取り扱い」に該当し、違法となる場合も考えられます。
育休が明けて職場復帰をする際、給与の金額が育休前より下がると、原則として「不利益な取り扱い」に該当し、違法となる可能性が高いといえます。また、正社員から契約社員・パート社員への変更など、雇用形態を変えるのは「不利益変更」にあたる可能性が高いと考えられます。
ただし、育休後に給料が下がることに、合理的な理由がある場合は別です。たとえば、能力の低下が明らかである場合や、勤務できる時間が限られるなどです。
違法な「不利益な取り扱い」を受けた場合には、各都道府県の労働局が設置している総合労働相談コーナーへ相談し、労働局から職場へ助言・指導してもらいましょう。ほかに、「あっせん」の利用も考えられます。それでも解決しなければ、労働審判や訴訟の提起などを検討せざるをえないでしょう(「あっせん」の詳細は【前回の記事】)。
また職場復帰時には、育休前と同じ業務に復帰するのが原則です。ただし、育休前後で担当する業務が異なることが、必ずしも「不利益な取り扱い」に該当するとはかぎりません。育休前のポストに他の従業員がついていてどうしても調整がつかなかったり、その業務自体がなくなっていたりする場合も考えられます。
もともと使用者には、労働者に対して転勤を命じたり、担当業務の変更を命じたりする権限もあります。
しかし、遠隔地への異動が命じられたことで、育児や介護に大きな支障が生じるような場合には、転勤や担当業務の変更が無効になる場合もありえます。
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<関連条文>
【育児・介護休業法】第10条 不利益取り扱いの禁止
事業主は、労働者が育児休業申出をし、または育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならない。
【育児・介護休業法】第22条 雇用管理等に関する措置
事業主は、育児休業申出および介護休業申出並びに育児休業および介護休業後における就業が円滑に行われるようにするため、育児休業、または介護休業をする労働者が雇用される事業所における労働者の配置その他の雇用管理、育児休業、または介護休業をしている労働者の職業能力の開発および向上等に関して、必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
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事情があれば「最長2年まで」育休の取得が可能
Q2.「産休が終わるまでに子どもを預けられる保育園が見つからない。職場に産休を延ばしてほしいと言ったら、解雇だと言われた。」
⇒育児・介護休業法の規定により、原則、子どもが1歳になるまで育休を取得できます。保育園に入れないなどの事情がある場合、最長2年まで育休を取得することができます。ただし、法律で定められた育休期間が満了している場合は解雇の理由にあたらないとは言えません。
上谷 さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)、犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長
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