改正相続法を物語で読み解く本連載。今回のテーマは「遺産分割事件の調停」。遺産分割手続は【相続人の範囲⇒遺言書の有無・効力⇒分割協議書の有無⇒遺産の範囲⇒…】という流れで進みます。順番を前後させることはできません。各事案において争いが生じた場合、調停の申立てや裁判など他の手続きを先行して行う必要があります。※本連載は、片岡武氏、細井仁氏、飯野治彦氏の共著『実践調停 遺産分割事件 第2巻』(日本加除出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

ポイント解説:遺産の一部分割の申立て

遺産分割の調停又は審判において、一部分割の申立てをする場合には、分割を求める遺産の範囲を特定する必要があります。真人さんは、申立書に添付した遺産目録が全ての遺産である旨を記載した上で、申立ての趣旨には、遺産の一部(キウイ畑)の分割を求める旨と、遺産目録記載のどの遺産の分割を求めるのかを特定して記載しています。そこで、石原委員は、なぜ一部分割を求めるのか、その理由について質問をしたのです。

相手方への聴取…「全部分割」を求める二男らの事情

祐人「兄貴は勝手なんだよ。親父も遺言書で畑を俺にって書いてくれているんだから、俺に農業を続けてもらいたいはずだよ」

 

祐人が吐き捨てるように言った。

 

鈴木「まあまあ。真人さんにも彼なりの考え方があるから。

 

我々としては、先ほど申し上げたように、全部分割を求めます。祐人さんの寄与分も主張する予定です。したがって、キウイ畑だけを先に分割すると、残された遺産だけでは分割対象財産額が減るので、寄与分を充たすことができなくなることもあり、祐人さんの利益を害するおそれがあると考えています。

 

真人さんがどうしても一部分割にこだわるなら、次回までに、こちら側から全部分割の申立てを追加することにします。

 

詳細は、申立書に記載しますが、以上の申立人の主張に加え、みかん畑と自宅の土地建物、かいこう銀行と霧笛信用金庫の預金なども分割すべき対象となる遺産です。

 

補足して申し上げると、愛子さんは、かいこう銀行(鶴岡駅前支店)から普通預金のうち150万円を相続開始後に払戻しを受け、同額を葬儀費用として使用しています。他方、この払戻しとは別に誰かが預金を引き下ろした形跡があります。それも調査してまいります」

 

――石原は本件には使途不明金の問題があることを知り、この先の調停の展開に一抹の不安を持った。

 

石原「分かりました。では、次回期日を決めるためにも、申立てがいつ頃になるかお伺いします」

 

鈴木「準備はほぼできているので、すぐに全部分割の申立てをします」

 

石原「分かりました。真人さんに今の話をして、次回期日を決めることにします。では、交代してください」

 

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本連載における「改正法」は、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律(平成三〇年法律第七二号)」をさします。

実践調停 遺産分割事件 第2巻 改正相続法を物語で読み解く

実践調停 遺産分割事件 第2巻 改正相続法を物語で読み解く

片岡 武

細井 仁

飯野 治彦

日本加除出版

特別寄与料、配偶者居住権、預貯金の払戻しなど改正相続法に則した実務が理解できる! 改正相続法下の遺産分割の解決手法をストーリーと解説で描いた一冊。 <ストーリー> みかん農家を営む寺田信太郎が死亡し、仏壇の…

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