改正相続法を物語で読み解く本連載。今回のテーマは「一部分割」について。物語は、果実業を営んでいた被相続人の死亡から始まる。長男は父の遺産である畑の売却を目論み、次男らと対立。遺産の現金化を急いだことから家庭裁判所に遺産の「一部分割」を求める調停申立書を提出し、調停委員たちは準備を進めていた…。※本連載は、片岡武氏、細井仁氏、飯野治彦氏の共著『実践調停 遺産分割事件 第2巻』(日本加除出版)より一部を抜粋・再編集したものです。
<改正法Q&A>一部分割とは?
遺産分割においては、遺産の全部について一回的解決を図るのが望ましいのですが、遺産性や評価方法、特別受益、寄与分などに争いがあり、これらの解決を待つのでは、最終的な遺産分割の結論が出るまでに相当の時間がかかる事案もあります。
そこで、遺産分割事件を早期に解決するためには、まず、争いのない遺産について先行して一部分割を行うことが有益な場合があり、また、改正前民法下における実務においても、一定の要件の下で一部分割を行っていました。しかし、法文上、一部分割が許容されているか否かが必ずしも明確ではありませんでした。
そこで改正法は、民法907条1項と同2項の文言につき、遺産の「全部又は一部」の文言を入れて、申立ての段階で遺産の一部の分割を求めることもできると改め、一部分割が可能であることを明示しました。
■ポイント:民法907条の「一部分割」
民法907条に定める「一部分割」は、分割の対象となる残余財産が存在するが、当事者が現時点では残余財産の分割を希望していないこと等を理由としてその一部のみの分割が行われる場合を対象とします。つまり、民法907条は、調停・審判手続の開始(入口)において、当事者に分割する対象財産についての選択を認めるものです。
【続く】
片岡 武
千葉法律事務所 弁護士(元東京家庭裁判所部総括判事)
細井 仁
静岡家庭裁判所次席書記官
飯野 治彦
横浜家庭裁判所次席家庭裁判所調査官
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千葉法律事務所
弁護士
元東京家庭裁判所部総括判事。
1954年生まれ。千葉地方裁判所、新潟地方・家庭裁判所長岡支部、旭川地方・家庭裁判所、東京地方裁判所、青森地方・家庭裁判所八戸支部、東京家庭裁判所、札幌高等裁判所、横浜家庭裁判所での勤務を経て、東京家庭裁判所家事第5部(遺産分割)部総括判事。2019年退官。
裁判官時代、家事事件の中でもとくに遺産分割事件に多く携わる。当事者の納得を得られる調停運営やウィットに富んだ講演に定評がある。2010年に『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』の刊行以来、相続分野における著作を多数刊行。
【主な著書等】
『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』編著、日本加除出版
『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』共著、日本加除出版
『改正相続法と家庭裁判所の実務』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 面会交流 ―子どもの気持ちに寄り添う調停実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法
静岡家庭裁判所
次席書記官
1961年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、知的財産高等裁判所等での勤務を経て、2020年現在、静岡家庭裁判所次席書記官。
書記官実務の中でも、とくに家事事件全般に多く携わった家事事件のエキスパート。『実践調停』シリーズでは主に物語部分を手がける。理論的で精緻な筆致と柔らかな感性で色彩豊かなストーリーを描く。
【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法
横浜家庭裁判所
次席家庭裁判所調査官
1960年生まれ。東京家庭裁判所、横浜家庭裁判所、札幌家庭裁判所等での勤務を経て、2020年現在、横浜家庭裁判所次席家庭裁判所調査官。
家庭裁判所の家事事件、少年事件などの調査を行う家庭裁判所調査官の視点から、とくに、介護や特別寄与の関係を細やかに描く。当事者にとって最もよいと思われる解決方法を検討し、心理的な援助を行うプロフェッショナル。
【主な著書等】
『実践調停 遺産分割事件 ―物語から読み解く調停進行と実務―』共著、日本加除出版
『実践調停 遺産分割事件 第2巻 ―改正相続法を物語から読み解く―』共著、日本加除出版
著者プロフィール詳細
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連載小説「実践調停 遺産分割事件」 ~ストーリーで読み解く改正相続法