Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

なぜAIは「シマウマ」が認識できないのか?

AIの弱点

 

この認識の問題について、まるで人間の進化をトレースするように進化しているものが、人工知能(AI)です。ところが外側との直接的な接触をもたないAIは、人間のような連想や空想が苦手なのです。

 

秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)
秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)

未来のAIを考える上での興味深い課題が、「フレーム問題」と「シンボルグラウンディング問題」で、どちらも現実と対応したときに起きる課題です。特に「シンボルグラウンディング問題」では、「ことばのほんとうの意味がわからない」というAIの弱点が露呈されています(『ニュートン』2019年9月号「人工知能のすべて」)。

 

例えば「『シマウマは縞のあるウマです』と教えたら?」では、子どもとAIの両者に同様の質問をしますが、その両者の理解のイメージには明らかな乖離があります。子どもはすでに獲得している「ウマ」と「縞」の概念を組み合わせることで、「シマウマ」の概念を想像することができます。

 

AIは子どもでわかる「シマウマ」が理解できないのか。(※写真はイメージです/PIXTA)
AIは子どもでわかる「シマウマ」が理解できないのか。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

「一方で、すべてを記号として認識しているAIは、新たに定義された『シマウマ』の記号の持つ本当の意味を理解できませんでした」

 

実際に見たり聞いたりした経験を持たないAIは、単なる記号としてのみ世界を認識しているために、「ウマ」と「縞」という単語を、コンピュータ上の記号(文字列)としてのみ認識するだけです。私たちが生きるこの実世界における「シマウマ」の本当の姿を、AIが私たちと同じように理解することは、現状ではできません。

 

AIに関するこの“弱点”は、記号(シンボル)が実世界の意味に直接結びついていない(接地しない)ことから、「シンボルグラウンディング問題(記号接地問題)」と呼ばれています。

 

興味深いことに、この問題を解決するための有力な仮説においては“記号の世界”を抜け出し、人間と同じような身体を持たせることが必要であるというのです。彼らに「身体性」を持たせることで「シンボルグラウンディング問題」が解決されるだけでなく、多様な要素からなる現実世界に適切に対応できる「フレーム問題」も解決されるのではないかといっています。この仮説からもわかる通り、人間においても身体的な知覚が脳内でつくられる認識世界にいかに深く影響をもたらすかがわかります。

 

秋元 雄史
東京藝術大学大学美術館長・教授

 

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アート思考

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秋元 雄史

プレジデント社

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