Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

何も影響を受けていない目で物を見られるか

「問い」を見つけるセンス

 

「問い」を見つけるセンスは、どう養っていけばいいのか。

 

ここからは、少し話が難しくなりますが、我慢して読み進めてください。

 

最初にするべきことは、あなたの曇った目を取り除くことです。

 

最初にするべきことは、あなたの曇った目を取り除くことです。(※写真はイメージです/PIXTA)
最初にするべきことは、あなたの曇った目を取り除くことです。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

私たちは自らを取り巻く外界を正しく理解していると思っていますが、まずそれが間違いであると気づく必要があります。それは、あなたが「見ている」と思い込んでいるものは、「本当に見ているもの」ではない可能性が高いからです。少なくとも何物にも影響を受けていない裸眼で見ているわけではないのです。

 

例えば、美術史を学ぶと、人類は目に見える世界を捉えるために様々な認識パターンを「発明」してきたことがわかります。点、線、面、円、四角形、三角形は、人間が発明した幾何学的な図形で、人はこれらを利用して世界を視覚的に把握しているのです。また輪郭線、陰影法、遠近法という技法を使い、本物らしく物や人を写し出しています。空間把握を行うための概念も同様で、すべて視覚認識のために人間が発明した認識パターンなのです。それは「実際に自然界において、これらの形態が存在していない」ことからも理解できます。

 

「え? ほんと?」と思われるかもしれませんが、真実です。線など存在しませんし、輪郭線も遠近法も人間がつくり出した架空のアイデアです。

 

その証拠に、コンピュータのグラフィック用のソフトを使えば、現実に存在しない場所をいくらでもそれらしく、三次元的な表現で描き出すことができます。表現が難しいと言われる人物もゼロからつくり出すことができるでしょう。実際の現実世界との対応関係がなくても、架空の風景や人物をこれまでの視覚造形上の認識を活用すればいくらでもつくり出すことができます。このように、視覚認識パターンは解明され、絵画的な技法としてプログラム化されてアニメーションなどに活用されています。

 

これは生まれ持った視覚機能による認識とは異なる、人が成長する過程で教育された認識で、“文化的な眼”とでもいうべきものです。この架空のものを本物らしく認識してしまうメカニズムが、人間に視覚的な様々なイメージを呼び覚まし「認識の跳躍(誤謬)」をもたらしています。ここでお伝えしたいのは、視覚器官がいかに教育されやすい器官か、また文化的な影響を受けやすい器官か、そして、だからこそイメージを自由に飛翔させることができるのかということを知っていただきたかったのです。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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