ESG投資とインパクト投資…両方の基準を満たすには
幾田 少し前に再生可能エネルギーについての話題が出ました。ご自身のポートフォリオに組み入れられている比率も少なくないと思いますが、ESG投資についてどのように考えていらっしゃいますか?
マイク ESGは過去12〜18ヵ月間でますます人気のあるトピックになっています。昔の話ですが、私はクレディ・スイスの信託および慈善事業の責任者でしたので、 倫理的な投資や、それに伴う制限については熟知しているつもりです。ESGは人によって意味や考え方が異なるのが常ですので、我々もESGという視点で物事を見るようにはするものの、自分たちなりの基準を用いるようにしています。その最たるものとして、環境、社会、ガバナンスに続く第4の要素である「インパクト」をプロセスの中に取り入れるようにしています。まず、E:環境については主に再生可能エネルギーに関与する投資によって達成可能です。S:社会は社会を支えるインフラストラクチャ資産に投資するので、これは学校、これは病院、道路、住宅などです。G:ガバナンスは投資した企業や経営陣と多くの交流を通じて評価を行いますので、確信を得るのに時間がかかることが多いです。そして、I:インパクトは主に新規の資金調達をEやSに該当する分野に積極的に投資することで、社会に好影響を、すなわちインパクトを与えている企業に投資をすることで実現可能である考えています。
幾田 最近、何人かのインパクト投資家と話す機会があったのですが、彼らのスタンスはESGを別個のものとして扱っているように感じました。あなた方の基準の1つであるI:インパクトはESG投資の考え方の延長なのでしょうか? それともインパクト投資に近いものなのでしょうか?
マイク 私もESG投資はインパクト投資とは性格が異なると思います。しかし、両方の基準を満たす投資をすることは不可能ではありません。ESG投資家とインパクト投資家との間に意見の相違があるのは不思議ではありませんが、私たちは実際にはどちらの陣営にも身を置いておらず、長い間自分たちの基準で物事を進めてきました。私たちは、「機能する経済の柱」というテーマの中で柔軟性のある投資方針を掲げ、ESGとインパクトの両方の基準を満たす多くの投資機会をこれまで見つけてきました。あえて付け加えることがあるとすれば、慈善活動と投資を混同しないように注意すべきということでしょうか。確かに、私たちの投資が社会にプラスの影響を与えることができるというのは気持ちの良いものですが、投資判断は投資家に利益をもたらすために下されるべきものであり、それが私たちの主たる目標です。 20年ほど前にスイス人の同僚が言ったコメントを拝借すると、私たちの仕事は「食べた時に美味しくて、食後に気持ちよく眠れる」投資案件を探すことなのです。
ESG投資への熱がリアルアセットに及ぼす影響は?
幾田 これらのESG熱とも言うべき関心の高まりがリアルアセットに及ぼす影響についてコメントをお願いします。
マイク リアルアセットに対する影響はポジティブだと思います。具体的なメリットとして、我々が長い間投資してきた企業が新しい投資家を引き付け、追加の資本を調達できるようになり、流動性の向上をもたらしたり、価格上昇を引き起こすことです。ESG投資に対する注目の高まりはリアルアセットに利益をもたらすことはあっても、弊害となる恐れはないように思います。
幾田 最後に、2021年のリアルアセットの見通しについてお聞かせください。
マイク コロナウイルスは2021年も市場に長い影を落とし続けることになると思います。物事に対する社会的配慮は各国政府の命題として重くのしかかり、投資家は前例のない大規模な刺激策の影響に対処する必要があります。そこには地球規模での環境への配慮も含まれます。世界貿易と新たに発足するバイデン政権には要注目です。また、各国の中央銀行の動きが資産価格の形成に大きな役割を果たすでしょう。しかし、リアルアセットの観点からは、これらは短期的な一過性の懸念事項に過ぎません。インフレ連動の長期契約を裏付けとした収益力を持つ寿命の長い資産は、不確実性の高い市場環境にさらされる投資家にとって居心地の良い場所を提供し続けると思います。
冒頭にマルチアセット戦略を運用していることをお話ししましたが、リアルアセットはその戦略で運用するポートフォリオの30%を占めています。リアルアセットは投資家のポートフォリオにもっと組み入れられるべき資産クラスであると思います。