人間関係の希薄化がもたらした「お葬式」の小規模化
一昔前までは、「葬儀は親族・親戚・隣近所が協力し合うもの」という社会通念がありました。近所づきあいも、親族や親戚との行き来も頻繁にあり、人間関係が今よりも濃密だったため、人が亡くなるということは家のみならず地域にとっても大きなことだったのです。
葬儀や埋葬に関わる人が多ければ多いほど、その集団のなかでの価値観の統一がある程度必要になります。そこに属する人がそれぞれ好き勝手を主張したら、物事は進まないからです。従来の葬儀やお墓のあり方には慣例が存在し、その枠のなかでやりましょうという無言の申し合わせがありました。異をとなえると「故人の顔が立たない」などと白い目で見られたものです。
しかし時代は変わり、今はその「集団」がとても小さい規模になっています。地域や企業をあげて葬式を執り行うといったことは、よほど貢献度の高い人が亡くなった時に限られますし、親族が葬儀や埋葬に口を出すということもなくなってきました。
故人の家族のみでうちうちに、というのは、一昔前はひっそり人目を忍んでといったニュアンスが感じられ、あまりいい印象を与えませんでしたが、今はそのように言う人がいても穿った見方などされることはほとんどありません。それだけ、少人数、小規模での葬儀が多くなり、認知されてきたということでしょう。
集団より「個」の時代、言いやすくなった個人の希望
さて、葬儀や埋葬に関わる集団がこのように小さくなれば、そこにいる人は自分の意見が言いやすくなります。既存の枠にとらわれず、私はこうしたい、という思いが実現しやすくなるというわけです。故人も、昔なら親族や地域の手前言い出しにくかったことも、ごく内輪であれば、「自分が亡くなったらこうしてほしい」といった希望が言いやすくなっているのではないでしょうか。
すでに、葬儀や埋葬に対する価値観は多様化へと向かっています。そんな社会の変化に応じて、葬儀やお墓も、よりパーソナルなニーズに合わせたさまざまなスタイルのものが実際に登場してきています。
その多様化した価値観に、従来のお墓の形式は必ずしも沿うものにはなっていないのが実情ではないでしょうか。
例えば「私はこの墓に入りたくない。海に散骨してほしい」と子どもが言えば、どんなに立派な代々のお墓があったとしても、その子にとっては不要なものになってしまいます。墓がある場所から遠く離れた地に永住を決め、そこに骨をうずめたい、と願えばやはり、その墓に入ることはないでしょう。
また、女性の場合、婚家の墓に入るのが日本の伝統的な考え方ではありましたが、近年は個人を大事にする個人主義の台頭と合わせて「姑や夫と同じ墓には入りたくない」との考え方をオープンにできる風潮も高くなってきています。
「マイカーに憧れない世代」のお墓事情
広さへのこだわりも過去のものになってきています。都市部では、ここ20年くらいの間で、売り出される一区画当たりの面積が以前と比べて半分ほどになっているとも聞いています。
このように、以前は重要視されていた感のあるお墓の大きさや見た目、立地にこだわらない人が増えているのです。
ある意味、家や車と似たような感覚なのかもしれません。大家族であればそれなりに大きな家が望まれても、核家族や単身世帯ならコンパクトなほうが住みやすく手入れも行き届きやすいでしょう。車もかつては富やステイタスの象徴で、大きく見栄えの良い高級車は憧れの的でしたが、今は機能重視で小回りが利くタイプが売れていると聞きます。さらには所有にこだわらないライフスタイルを背景に、カーシェアリングも普及してきています。
もちろん大きいものはすべて時代にそぐわないから悪い、といっているのではありません。そういう価値観の人もいるでしょうし、必要とする人もいるでしょう。ただ、世の中の流れが少子高齢化になっている以上、それほど大きなものにはもうこだわっていない方が増えているということはいえると思います。要は快適に暮らせればよく、そのために「大きなものである」ことは絶対条件ではない、ということです。
ではお墓に置き換えるとどうか。お墓に対する意味づけは個々人によって違うと思いますが、少なくともここ半世紀で、ご先祖さまを敬う、その気持ちの現れ方として、大きくて立派なお墓が必ずしも絶対ではない、という考え方になってきています。
墓ももはや「家」のもの、ではなく、「個人のもの」という価値観が生まれてきており、個々のニーズに応えられるものが望まれているのではないでしょうか。従来のお墓はそのニーズに応えることが難しくなっているといえます。
樺山 玄基
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