NHK連続小説『おちょやん』で杉咲花さん演じる主人公、浪花千栄子はどんな人物だったのか。幼いうちから奉公に出され、辛酸をなめながらも、絶望することなく忍耐の生活を送る。やがて彼女は銀幕のヒロインとなり、演劇界でも舞台のスポットライトを浴びる存在となる。この連載を読めば朝ドラ『おちょやん』が10倍楽しくなること間違いなし。本連載は青山誠著『浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優』(角川文庫)から一部抜粋し、再編集したものです。

「モダンな顔立ち」には化粧がよく映えた

館内の照明は薄暗く、タバコの煙が充満していた。蓄音機から流れる音楽に混じって、男女の笑い声が響く。思った通り、客の大半は軍服姿の将校や下士官だった。

 

客の横に座ってお酌する女給たちは、派手な着物にエプロン姿。庶民の女性の間でも流行りはじめたパーマをかけて、化粧もかなり濃い目になっている。

 

髪は自分で簡素に結ぶだけ、化粧などしたこともないキクノだけに、

 

「うち、ホンマにここでやっていけるのやろか?」

 

決心が揺らぎそうになる。しかし、案ずるより産むが易し。幸い、先輩の女給たちは親切で面倒見が良く、素人のキクノに、仕事を手取り足取り教えてくれた。

 

みんな何らかの事情をかかえて水商売に入った女たちである。境遇の似た者同士、仲間意識は強い。

 

富田林の奉公先で御寮さんが仕立ててくれた一張羅に着替え、店から支給されたエプロンをかける。先輩の女給たちが髪を結い直し、花かんざしを貸してくれた。

 

また、化粧のやり方も手取り足取り教えてくれる。先輩の女給たちから「モダンな顔立ち」と評されたキクノの顔には、化粧がよく映えた。

 

鏡を見て本人も驚いた。薄汚れた田舎者の自分が、こんなに変貌しようとは……。やはり、女性にとってお洒落や化粧は心強い武装になる。鏡に映る自分の姿を眺めるうち、「やれそうだ」と、自信がみなぎってきた。

 

カフェーから近い場所に、女給仲間と相部屋ではあるが住居を与えられた。

 

仕事をはじめてから1ヵ月が過ぎているが、まだ、男性との会話には慣れずにたどたどしく、お酌する手付きはぎこちない。

 

しかし、客あしらいの上手い女給よりも、こういった初々しい娘を好む客は多いもの。しだいにひいきの客もつくようになってくる。

 

カフェーの女給には、住む場所と食事が与えられるだけで、給料は支給されない。客からもらうチップだけが収入源だった。

 

客が付けば50銭から1円程度のチップがもらえる。陸軍師団に隣接した商店街のカフェーは、いつも軍人や軍関係の仕事をする民間人でにぎわっていた。客が途絶える心配はない。

 

当時の女給の月収は50円程度といわれるが、売れっ子の商売上手ともなれば客からのチップだけで100円以上は稼いでいた。高価な服やアクセサリーをプレゼントされることもある。小学校にも満足に通えなかった貧乏人の娘が、大卒のエリート社員と変わらぬ高収入を得ることができるのだ。

 

キクノの場合はそこまで稼げなかったようだが、それでも女中の月給と比べれば、その10倍くらいにはなる。女を武器にすれば、これほど簡単に金を得ることができるのだ。こんな世界があったのかと、驚いてしまう。
 

 

青山 誠
作家

 

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浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

浪花千栄子 昭和日本を笑顔にしたナニワのおかあちゃん大女優

青山 誠

角川文庫

幼いうちから奉公に出され、辛酸をなめながらも、けして絶望することなく忍耐の生活をおくった少女“南口キクノ”。やがて彼女は銀幕のヒロインとなり、演劇界でも舞台のスポットライトを一身に浴びる存在となる。松竹新喜劇の…

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