事業承継やM&Aにおけるハードルは何か。以前であれば、その1つに「資金調達」があげられたでしょう。ところが最近、資金調達の目途がついた後、当事者間の合意が取れて順調に話が進んでいたにも関わらず「意外な横槍」を受けて破談に至るケースが増えています。一体なぜこのようなことが起きているのでしょうか? 中小企業の経営支援を幅広く行う筆者が、事業承継M&Aにおける「嫁ブロック」を解説します。

「お金の使い道」に奥様が猛反対、破談に至るケース

具体的には、従業員承継における個人保証の切替がよく問題になります。現社長が金融機関から借り入れを受けていた場合、社長自身が保証人として個人保証をしていることが多く、金融機関は承継者となる方に個人保証の切替を求めることがあります。

 

承継者はそれを承知していたとしても、奥様がそれを知ったとたんに「保証人にされ、借金を押し付けられたのではないか」と不安に思って反対する、というケースです。

 

M&Aでも同様の事例があります。会社を辞めた際の退職金やサラリーマン時代に貯めた貯金で会社を購入するつもりが、奥様に反対されて結局、破談したといったケースです。

 

ご本人からすれば「自分が稼いだお金なのだから好きに使いたい」という気持ちもあると思いますが、奥様から見れば今後の生活資金や子どもの養育費などの不安が勝り、議論や意見対立が生まれます。

 

特に個人で買えるような金額のM&A案件も増えてきていることから、今後このようなケースは益々増えていくことと思われます。

 

ちなみに、意外かもしれませんが、譲渡する側も同様に揉める可能性を秘めています。特に奥様が経営に携わっていたり、社員として働いていたりすれば、会社の現状を理解し事業譲渡にも理解してくれていることが多いのですが、会社の経営に関わりが少ないほど、反対されるケースが増える印象です。

嫁ブロックを回避する秘策「ステークホルダーマップ」

このような破談のケースを防ぐにはどうすればよいのでしょうか。意思決定者や利害関係者が多くなってくる場合、我々が状況を整理するためにおすすめしているのが「ステークホルダーマップ」の作成です(図表参照)。これは会社や主要人物の相関関係を図示したもので、全体像を俯瞰する際に用います。

 

[図表]ステークホルダーマップ

 

この図を使えば、経営判断を進めていくうえで誰を巻き込めばよいか、誰と利害が一致し、誰と対立しそうか、といったことが可視化されて、わかりやすくなります。

 

作成時の留意点として、経営の意思決定をするうえで誰の判断を仰がなければならないか、ということを漏れなく記載することが挙げられます。

 

登場人物として、一般的には出資者、現社長、承継者のほか、社員、取引先、金融機関などが挙げられますが、ここに「奥様」の存在を考慮します。社外には見せづらいものにはなりますが、会社の株の持分割合なども加えて事業を引き継ぐための準備として作るとよいでしょう。

 

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