衝撃の事態…コロナ禍で「見切られる税理士」続出
様々な業界でコロナウイルス感染症の影響が広がっていますが、比較的安定しているとされる士業でも影響が出ています。
筆者も仕事柄、弁護士、税理士、社会保険労務士、司法書士といった様々な士業と付き合いがありますが、その中でも税理士業界の動きが慌ただしく感じます。
特に印象的なのは、顧問先に見切られる税理士が増える一方、40歳前後の税理士には新規の顧問契約依頼が殺到しており、「事務所職員の求人を積極的に行っているが、採用が進まない」という話を様々な場面で聞くことが増えた点です。
税理士業界の「多忙ゆえに品質低下、売上減」の悪循環
税理士といえば税務コンサルティングなどの知識集約的なサービスの提供をイメージしがちですが、実態としては経理代行などの労働集約的なサービスが主軸となっている税理士事務所も多く存在します。
たとえば、長年税理士事務所を営んでいる村井陽二郎さん(仮名・67歳)は、経理業務を自前で行うことが難しい比較的売上規模の小さな事業者に、「経理業務を代行しますよ」と売込み、毎月送ってもらったレシートを会計ソフトへ入力する仕事をメインに顧問契約を取ってきました。
こういったクライアントは売上が小さいため、節税などの税務コンサルティングニーズもあまりなく、税務申告だけ問題なく済ませたいという事業者がほとんどでした。村井さんの事務所は税理士資格を持たない入力担当スタッフを10名ほど抱え、今まで安定的に稼ぐことができました。村井さんと同世代の税理士仲間の多くが同様のビジネスモデルで、中には数十人の無資格スタッフを抱えている仲間もいました。
しかし、この構造が税理士業界の課題でもありました。経理代行業務は一定の需要があるものの、質的な差が見えづらく価格競争に陥りがちでした。特にベテラン税理士のような顧客基盤がなく、新たに顧客開拓をしなければいけない独立したての若手税理士たちは、日本全体で新規開業数(潜在顧客)が伸び悩むなか、同業者に対抗するためにはもはや価格勝負しかない、という発想になりがちでした。
しかし、経理代行業務を安い価格で沢山請け負っている税理士ほど多忙にも関わらず売上が少なく、徐々に手抜きやミスが増え、レスポンスが遅くなり、結果、顧客とのトラブルが増加する、というケースが散見されました。
そんななか、税理士業界に変革をもたらしたのが、freeeやマネーフォワードといったクラウド会計の台頭です。これらのサービスを利用することにより、仕訳がわからない人でも、自前で経理・税務申告を行えるようになったのです。その結果、税理士との顧問契約を解消する企業や、税務調査のリスクなどを考えて申告だけ税理士にお願いする企業が増え始めました。
クラウド会計の導入で「高品質と低価格」の両立成功
当初、このクラウド会計に対する税理士の反応は様々でした。これには税理士業界ならではの2つの事情も絡んでいました。
1つは会計ソフトを変更するスイッチングコストの高さ。従来、多くの税理士事務所はインストール型の会計ソフトを使っていました。これらは導入にコストがかかることはもちろん、ソフトごとに操作方法や出力形式などが異なるため、多くのクライアントを抱える税理士事務所では、他の会計ソフトへの乗り換えが難しくなっていました。
もう1つは税理士の高齢化。先述の村井さんのように、税理士の平均年齢は60歳を超えていると言われており、70歳、80歳を超える税理士も珍しくありません。概して、彼らの多くはITリテラシーが決して高いとは言えず、新しいWEBサービスには疎かったり、懐疑的であったり、ときにはクラウド会計に反発的な態度すら見受けられました。
一方で、これらの影響が少なく、適応力の高い若い年代の税理士はクラウド会計のメリットに注目して積極的に導入を進めています。企業側から見れば月次試算表などの資料をリアルタイムで社内共有でき、経営判断が早くなる利点があり、実は税理士側としても入力作業を企業側で行い、確認だけ行うことで単純作業を減らせる利点が生まれました。
これにより、サービス品質を担保しながら低価格化を実現し、新規顧客を増やし、増えた顧客の中からアップセル(税務コンサルなどの質的なサービス提供)を狙って売上を拡大させる税理士も増えています。クラウド会計は需要の高まりを見せ、現在はインストール型の会計ソフトシェアNo.1である弥生会計も追随する形でクラウド会計サービスを開始しています。
「変化に対応する力」が税理士の信頼性を左右
そして、この過渡期に新型コロナウイルスの感染拡大が起こりました。昨年一年間で、休業協力金や給付金、補助金、融資制度など様々なコロナ関連施策が展開されましたが、「税理士から何も教えてもらえなかった」「商工会議所などで初めて知った」という声が多く聞かれました。
現在、このような対応の差が税理士の明暗を分けているようです。「普段から付き合いがあったのに、いざというときに助けてくれなかった」と失望したクライアント企業は、知人から評判を聞いてフォローの厚い税理士へと切り替えを進めています。特に従来、経理代行メインの税理士事務所は多忙ゆえにお客様のフォローまで手が回らなかったところが多いようです。
その結果、コロナの影響でクライアント企業以上に売上減少に悩む税理士事務所が生まれる一方で、クライアント企業へ手厚いフォローで評判を高めた税理士は、顧問先が急激に増え、スタッフの採用、教育に力を入れています。
今後、この流れはさらに加速が予想されます。今春には新たな補助金が始まります。昨今、補助金に関する情報はネットやYoutube動画などで、情報収集が容易くなったこともあり、多くの経営者が積極的に情報収集に動いています。
これら補助金の中には、認定支援機関の協力を必須要件としているものもあり、多くの税理士が認定支援機関の一つとして期待されています。にもかかわらず、顧問税理士を頼ってみたら、最新の補助金情報に疎く、申請サポートがままならない…、そんなところから信頼を損ねていく可能性が一段と高まっています。
また、コロナ禍で経営者の世代交代も加速し、その際にフットワークが重い、相談相手になり得ないと後継社長に判断され税理士を交代されてしまう、ということも今後増えていきそうです。
かつて、よき経営相談の相手として税理士を挙げる経営者が多くいました。しかし、最近ではその税理士自身が自分の事務所の経営を考え直す必要に迫られています。大きな環境変化に直面する中、変化を前向きに捉え、クライアント数や売上を拡大する税理士事務所と衰退する税理士事務所。みなさんの顧問税理士は果たしてどちらでしょうか?
盛澤 陽一郎
中小企業診断士
森 琢也
MASTコンサルティング株式会社 コンサルタント、中小企業診断士
プロフェッショナルコーチ