人材を活用するカギは「人事」です。しかし組織が大きくなるほど、ひとり一人の特性やスキルを把握した采配が難しくなり、現場から不満や反発が生じやすくなるもの。経営者として人を上手に動かし、組織に大きな影響力を持つにはどうすればよいのでしょうか? 中小企業の経営支援を幅広く行う筆者が「官僚を使うのがうまい」と言われる菅義偉内閣総理大臣の例をもとに解説します。

「菅義偉内閣総理大臣は、官僚の使い方がうまい」

今年の9月16日、2012年から続いた安倍内閣の後継として、菅義偉内閣総理大臣をはじめとする、菅内閣が発足しました。7年半ぶりとなる内閣総理大臣の交代ということに加え、世襲議員が多い日本の国会において、秋田の農家から努力と行動で総理大臣にまで上り詰めた異色の経歴が話題に上がりました。

 

菅内閣総理大臣のこれまでの経歴と人となりを発信する報道のなかでも、多く目にしたのが、「菅総理は、官僚の使い方がうまい」という記事です。これらの記事によると、菅総理が官房長官時代に設立した内閣人事局で省庁幹部の人事権を掌握し、このしくみを効果的に利用することで官僚を上手に動かすことができたようです。

 

では、なぜ人事を活用することで、人材を活用できるようになるのでしょうか。

「人事権の掌握」は組織への影響力を持つことと同義

人事とは、その名のごとく、主に「ヒト」に関する管理業務のことになります。具体的には、「採用」、「育成」、「配置」、「評価」の4つが、主な仕事となります。

 

これらの業務の一つひとつの詳細については別のコラムで書かせていただきますが、組織の中で人を集め、育て、役割を決めて、能力を見定める、という一連の流れは、組織の根幹を設計する大変重要な仕事であると同時に、そこで働く人たちにとって地位や環境、待遇の決定といった形で非常に大きな影響を与えるため、人事権を握っている人間が組織を動かせる影響力を持つことは頷けるのでは、と思います。

 

特に、その権限者の顔が直接見えるような中小規模の組織では、その権限者は組織内で大きな影響力を持つことになります。

 

この影響力を活用する例として、私たちは、支援先の企業において社長の親族等ですでに後継者が決まっている場合、採用と育成に関与させることをすすめることがあります。理由は、後継者自身が一緒に働いていきたいと思える人間を採用し、人材育成を通じて影響力を与えることで、将来自分の想いを理解して動いてくれる味方を囲い込み組織内の影響力を高めることができるからです。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

組織が大きくなるほど「現場に即した人事業務」が困難

ところで、私自身もそうでしたが、組織で働く人たちは、一度は配置や評価といった人事に関する不満を持ったことは、あるのではないでしょうか。もちろん、働く人たちすべてが不満を感じない完璧な人事の実現は極めてむずかしいことは想像できますが、なぜこのようなことが起こるのでしょうか。

 

組織が小さなうちは、経営者が直接働く人たちのスキルや特性を把握し、経営者一人の物差しで評価してその処遇を決めていきます。また、組織が小さければ、働く人が不満や想いも直接伝えることもできます。

 

しかし、組織が大きくなるにつれ、人事の運営は働く人たちの現場から離れていき、評価は評価スキルを持つとは限らない現場の管理者に、採用は現場を把握していない人事担当者に委ねられていきます。場合によっては、まったく面識がない担当者が離れた事務所で人事業務を行っていくので、人事と現場でギャップが大きくなるのです。

「一貫性のある人事制度」の運用が重要

組織が大きくなるほど、現場とのギャップに悩む人事の仕事ですが、私たちが、これら人事に関する支援を行う際に重要視していることは、「一貫性」です。

 

たとえば、私たちが実際に人事評価制度の作成や更新を依頼された際は、その会社の経営理念や戦略について、確認し、そこからあるべき人材像を作成していきます。お客様からは、「そんなに遠回りな工程が必要ですか?」という声をいただくこともあります。

 

そもそも組織とは、「一定の共通目標を達成するために、成員間の役割や機能が分化・統合されている集団」(デジタル大辞泉より引用)であるため、組織の人事制度には、各組織の目的はなにか、について整理し、そこからこの組織にとってあるべき人材像を定義することが必要になります。

 

この「組織の目的」、に当たるものは、多くの場合は経営理念や経営戦略になるかと思いますが、これにより導き出された、あるべき人材像を4つの人事業務に反映させて構築することで、一貫性のある人事制度を運用することができるようになります。

 

[図表]「一貫性のある人事制度」の運用工程

 

ただし、どれだけ精緻な制度を作っても、組織や外部環境は常に変化しており、また対象は「ヒト」という多くの個性や不確実性を持つものなので、どこまで行っても完璧なものはできません。重要なのは、制度を形骸化させず、常に現状に合わない点を改善していく意識をもつ血の通った制度運用を継続することです。

組織を動かすには、細やかな配慮や人間力も不可欠

官僚を使うのがうまいと言えば、「大臣室の扉はいつでも開けておく。」「すべての責任は、この田中角栄が負う。」といった殺し文句で大蔵官僚を虜にしたといわれる田中角栄の名が浮かぶ方もいるのではないでしょうか。

 

同氏は強い発言力と行動力によるリーダーシップを発揮するのと同時に、大臣といった地位でありながらひとり一人に声をかけるという気遣いを併せ持つ人間力を武器に、当時の大蔵省をはじめとする国の組織を動かしてきたといわれています。

 

このことは、人を動かし、組織に大きな力を与えるためには、血の通った制度運用を継続するうえで、評価や配置といった人事権を振りかざすだけでなく、細やかな配慮や人間力も必要であることを物語っています。

 

 

峯田 茶百良

MASTコンサルティング株式会社 取締役

 

森 琢也

MASTコンサルティング株式会社パートナー 中小企業診断士
プロフェッショナルコーチ

 

 

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