人口減少が進み、「若手」はますます希少な人材となっています。企業の成長には若手の存在が必須。しかし現在「若者」と呼ばれている人々はネットやPCのある環境で育った世代であるせいか、年長者からは「すぐネット検索に頼る」「対面でのコミュニケーション能力に欠ける」という否定的な意見が多いようです。つい「最近の若者は…」と言いたくなることもあるのではないでしょうか。しかし実際には、「マネジメント側」の姿勢にこそ問題があるのかもしれません。ここでは「若手人材の育成」について、中小企業の経営支援を幅広く行う筆者が、プロスポーツの例を参照しつつ解説します。

ミッションは若手育成…巨人OB・桑田真澄氏の登用

新型コロナウイルス感染症の拡大により、延期の可能性も示唆されたプロ野球の春季キャンプが、予定通り2月1日に始まりました。新型コロナウイルス感染症対策で、多くが入場制限やイベント中止を行っているものの、プロ野球ファンとしては、このままなんとか3月26日のシーズン開幕を迎えてほしいところです。

 

さて、今年は読売ジャイアンツ(以下、巨人)で、OBである桑田真澄氏が投手チーフコーチ補佐に就任したことが話題になりました。

 

会見では、指導者として、若手投手陣の育成に関わることが発表されましたが、桑田氏が長らく日本プロ野球に関わっていなかったこと、入閣発表が春季キャンプを約2週間後に控えた時期だったことなど、突然の発表に「異例のサプライズ人事」としてメディアに取り上げられました。

 

今回、桑田氏のミッションとなっている「若手人材育成」は、企業経営や人事に携わる人にとっても重要なテーマです。「デジタルネイティブ世代」と呼ばれる今の若手をどう育成していったらよいか、皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

「最近の若者は…」と語る人が忘れている、単純な事実

紀元前2,000年頃に、現在のトルコにあった古代ヒッタイト王国でも、粘土板で作られた書簡に「最近の若者は…。」といった現状を嘆く言葉が書かれていたという流説があります。いつの時代も年長者は、ネガティブな意味を込めてこのように語りがちです。

 

しかしながら、時代を問わず活気や勢いのある国・組織・企業では、若手がイキイキと働き成果を出しているという点も事実です。ということは、若者ではなく、マネジメント側(経営者・管理職)がどのように若者と向き合っていくか、その姿勢にこそ、大きな問題や課題があるのではないでしょうか。
 

現在、「若者」と言われる年齢層は、デジタルネイティブ世代とも言われています。デジタルネイティブ世代とは、子どもの頃からネットやPCのある環境で育った世代のことを指し、諸説あるものの、現在16歳~24歳が「Z世代」と呼ばれる、生粋のデジタルネイティブ世代と呼ばれます。物心ついた時からスマートフォンやSNSに慣れ親しみ、「デジタルデバイスとの高い親和性」「対人関係に平等性・合理性を求める」などコミュニケーション方法や価値観、労働観において、ほかの世代とは違った特性を持っています。

 

桑田氏は会見で、「われわれの世代はたくさん投げろ、たくさん走れだった。今は投球フォームがすぐにコマ送りで見られる。感覚と実際の動きを一致させることが大事」と発言しました。桑田氏の発言は、早くも理論派の一面をのぞかせていますが、これは中小企業の現場でも言えることです。

 

筆者が支援する飲食業K社では、若手育成に動画マニュアルを導入しました。人が人を口伝や身振り手振りで教育する従来のOJTと異なり、標準化された仕事内容を、タブレットやスマートフォンで、いつでも閲覧することができるように変革したのです。

 

若手には実際にロールプレイをさせて動画撮影し、本人にフィードバックすることで、マニュアルとの違いを、感覚だけではなく目で見てわかるようになりました。

 

また、業務連絡や報告にはLINEを使用することで、文字だけでなく動画も活用し、情報をリアルタイムで共有できる体制も整えています。若者に適したマネジメントを取り入れることによって、「最近の若者」が従来以上の成果を上げています。

「名ばかり管理職」を一掃…若者世代が求める「競争」

デジタルネイティブ世代は、ヒエラルキーを前提とした人間関係を好まず、年齢や肩書きに、フラットで対等な関係性のなかで互いに認め合い、成長していくことを求めるのが特徴です。

 

筆者が支援する卸売業S社では、長く勤務する年長者に役職が付き、マネジメントをしない、いわゆる「名ばかり管理職」が横行し、若手従業員から不満の声が上がっていました。そこでS社では、自己申告制による人事評価制度を導入し、役職を一時撤廃。大胆な組織再編のために「社内プレゼン制度」を導入しました。

 

この「社内プレゼン制度」は、従業員自身が所属する部門をどのように導いていくか、S社長にプレゼンするものです。自身の信念や計画を社内にプレゼンし、社長に認められた場合、希望する役職に就くことができます。

 

S社長が求めたものは、「組織を強くすること」。そのためには、ヒエラルキーありきの組織づくりではなく、年齢や肩書きにとらわれることなく、フラットな関係を起点として、組織を再編することでした。

 

この社内プレゼン制度の第1回目には、2名の若手従業員が手を上げました。プレゼン内容は社長に認められ、近いうちに役職に就く予定です。そして、元々役職についていた「名ばかり管理職」たちからは、一人も手が上がらなかったそうです。

「世代による価値観の違い」を忘れてはいけない

巨人の原監督は、今回の桑田氏登用による「異例のサプライズ人事」について「チームを強くすることが目的」と語っています。「今時の若い者は…。」と非難と嘆き節で指導を放棄することなく、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修士課程で修士(スポーツ科学)を取得した桑田氏による、科学的で説得力のある指導方針こそ、若い世代に適合したチーム強化に必要であると巨人は考えたのでしょう。

 

いつの時代も、「世代による価値観の違い」はあるものです。バブル期の入社式の写真も、今見るとなかなかユニークです。このコラムを読んでいる皆さんも、いつの間にか、かつて上司から言われていたことを言う側になっていませんか。

 

太平洋戦争で海軍を率いた山本五十六はこんな言葉を残しているそうです。

 

「実年者は、今どきの若い者などということを絶対に言うな。なぜなら、われわれ実年者が若かったときに同じことを言われたはずだ。だから、実年者は若者が何をしたか、などと言うな。何ができるか、とその可能性を発見してやってくれ。(一部省略)」

 

さて、皆さん。「今どきのマネジメント層は、若者の育成がうまい」なんて、言われてみませんか?

 

※実年者とは、50~60歳代を指す言葉。

 

 

森 正樹

MASTコンサルティング株式会社 コンサルタント、中小企業診断士

 

森 琢也

MASTコンサルティング株式会社 コンサルタント、中小企業診断士

プロフェッショナルコーチ

 

 

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