
「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもなるのです。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。
「何かをすると、れーこに怒られる」
鬼のいぬ間に好き放題
今でこそ、認知星人に変身したじーじの行動や言動を笑って受け止められているが、はじめから「お釈迦様や女神様」のような対応ができていたわけではない。
つじつまの合わないことを話せば、イラッとして「そうじゃないでしょ」と否定をしたし、危険と思われる行動には「危ないからやめて」と言っていた。
今では、命に関わることでない限りはじーじの好きなようにさせている(させているって思ってること自体、まだまだ修行が足りないと反省もするが)のだが、じーじの頭の中は「何かをすると、れーこに怒られる」とインプットされているようで、私が家を留守にしている間にいろんな事件が勃発する。

とある日曜日。準夜勤ちゃん(私の娘)にじーじの見守りをお願いしていたが、準夜勤ちゃんは、38℃の熱を出してお布団の中。仕事をキャンセルするわけにもいかず、私は仕事へ。
夕方帰ってきてぶったまげた! フェンスに軍手がいっぱい干してある。その数10組。その周りには、椿と思われる枝が散乱。
もしかして……と庭に行ってみると、なんと脚立が立っているじゃあ~りませんか。おまけに脚立のステップの部分には、バスタオルが干してある。どうやら脚立に登って木を切ったらしい。
そこで、じーじに確認すべく「木を切ってくれたの?」(木を切ったでしょ、とは言わない)と聞いたら、「未果(準夜勤ちゃん)と一緒に木を切ったんだ」とじーじ。
準夜勤ちゃんに確認すると「へ? 知らないよ? そういえば電動のこぎりの音がしていたけど、裏の家だと思ってた」だって!
一人で木を切っていたわけではないと、しらっと、作話*をしてのけるじーじ。
私はいない、娘は寝込んでる、じーじは今がチャンスとばかりに「ウヒヒっ、うるさいやつらがいないから、木でも切っちゃおうかなあ~」って言いながら好き放題にしていたのかも(笑)。
しかし、あのすり足でどうやって脚立に登れたんだ? まあ、怪我がなくてよかったということにしておこう。
作話
記憶障害の一種。誤った記憶に基づく発言。相手をだます意図はない。