揉めない相続のためにM&Aを利用する
今回は、会社を絡めた高度な手法を見ていきます。法人で含み益を有する不動産を売却するときに使われる不動産M&Aの方法です。
M&Aというのは、そもそも企業の合併や買収のことを意味するものです。通常は、株式市場に公開されているような大企業に限定されたものというイメージがありますが、実は歴史ある老舗や企業が持つさまざまな問題を解決する方法の一つとして注目されつつあります。
例えば、ある商業ビルのオーナーのケースでは、会社組織にして、子どもが3人、それぞれ株主として均等分の株式を持たせていますが、仲が悪くて相続でもめそうな予感がしています。相続で何とかもめない方法はないだろうかと悩みに悩んだ末に売却を検討したのですが、その際、私どもは会社ごと売却してしまうM&Aをおすすめしました。
理由は、会社組織が保有している不動産を売却してしまうと、譲渡益が法人の所得となり、法人税が課税され、その後、会社を解散・清算すると株主に対して所得税が課税されるからです。
不動産M&Aでは株式譲渡益に対して20%の課税のみ
例えば、25億円で不動産を単純に売却した場合、法人税として40%がかかり、さらに法人税控除後の残余財産に所得税などが50%かかってきてしまいます。最終的に手元に残るのは次のような計算式で7.5億円になります。
25億円×(1-40%)×(1-50%)=7.5億円
一方、会社ごと売却する不動産M&Aの場合は、ビルオーナーが所有する法人株式の売却になりますから、株式譲渡益に対し20%の税金がかかるだけになります。
株式の譲渡価格の算出方法は、不動産以外に所有している資産や事業等を総合勘案して算出するため複雑な計算となりますので、単純に不動産価格だけで決められませんが、仮に現物不動産ではなく、株のまま譲渡するため、保有不動産の時価の8割を株式の譲渡価格としてM&Aをしたとしましょう。そうなると、次のような計算方法でM&Aの取引ができることになります。
25億円×80%×(1-20%)=16億円
手取り額に関しては、株式の譲渡価格をどうやって算出するかによって大きく違ってきてしまいますが、不動産の単純売却よりも不動産M&A=会社ごと譲渡してしまうことのメリットがおわかりになると思います。
いずれにしても都心部に不動産を保有していて、すでに法人を設立しているような人は、単純に不動産を売却してしまうのではなく、会社ごと売却してしまうほうが、税金の観点からはメリットが大きいといえます。