前回は、法人所有している不動産を売却する方法として、会社ごと売却するM&Aが有効な理由などを説明しました。今回は、相続税対策で「先代の残してくれたビルを手放したくない」というニーズに応える「区分所有」について見ていきます。

1棟の建物を「室」「フロア」の単位で所有できる

相続税対策を考えるときに、現在保有している物件をそのまま残すのか、それとも売却して現金化する、あるいは別の資産に変更する、といった選択肢を迫られたときには、なかなか決断がつかないという人がほとんどです。とりわけ、先代から引き継いだビルへの思い入れの強いオーナーさんは非常に多く、手放すのはなかなかの決断が必要になります。

 

そこで提案したいのが、所有しているビルを分譲マンションのように区分して売却する方法です。法的には、こうした所有方法を「区分所有」といいますが、これを5階建てとか6階建てといった小規模の商業ビルでも適用しようという方法です。

 

区分所有そのものは、昭和37年(1962年)に制定された民法の特別法として誕生した「建物の区分所有等に関する法律」が出発点となっています。

 

現在の区分所有法では、1棟の建物を「室」や「フロア」を単位として、その各部分について個々が所有する権利を「専有部分」として認め、さらに廊下や玄関、階段を含めた建物、そして集会室、管理人室などの付属施設などを「共用部分」として定義。単独の人間が所有して利用を制限されると困る部分を共用部分として設定し、専有部分の所有権と共に名義なども移動するように定めています。

「マグロの解体」のようにビル1棟の処分が可能

これは土地の部分にも適用され、敷地を利用し所有する権利「敷地権」も、建物の所有権の移動と共に移動するようになっています。この「敷地権」の共有などが認められるようになったことで、マンションや商業ビルなどの権利関係が明確になりました。

 

それまでは、区分所有法の定義が曖昧で、さまざまなトラブルにも発展しましたが、平成14年度と平成20年度の税制改正によって、区分所有の概念が「すべては専有部分を中心に」という方向に傾き、共同生活の場では戸建住宅のような自由が制限されることを明確に法整備しました。その法整備によって、管理組合の位置づけや団地のような大規模住宅の建て替えなどもスムーズにいくようになったのです。

 

こうした区分所有の法整備によって、従来では考えられなかったようなビジネスや財産承継のスタイルが誕生しています。例えば、最近では都心部などを中心に「区分所有オフィス」として、一つの商業ビルをワンフロアだけ分譲オフィスという形で販売するような方法によって、財産の一部流動化を行うことができるようになってきたのです。

 

この方法を採用すれば、例えば5階建ての商業ビルを保有しているビルオーナーが、相続税が払えないといった場合は、5階のうちの2階と3階だけを第三者に売却して、そのお金で相続税などを支払うことが可能になるわけです。

 

冒頭で指摘した「先代の残してくれたビルを手放したくない」というニーズに応えられる手法が、この区分所有オフィス、区分所有店舗といった形での売却で解決できるようになります。

 

こうした方法を、筆者は個人的に「マグロの解体」と呼んでいます。大きなビル1棟をマグロになぞらえて、そのマグロを解体して処分していくような方法という意味ですが、以前はこのような方法がまだ浸透していなかったために、相続財産の流動化策としては、一般的な方法ではなかったという事情があります。

本連載は、2013年7月29日刊行の書籍『ビルオーナーの相続対策』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

ビルオーナーの相続対策

ビルオーナーの相続対策

川合 宏一

幻冬舎メディアコンサルティング

ビルを所有しているような資産家であれば、顧問税理士をつけて節税も抜かりなくやっていて不思議はなさそうなものですが、実はほとんど有効な手だてを講じていない人が多いのが現実です。 そのため、そのような人は相続税で数…

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