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この文京区の事例から相続に関して2つの教訓があります。1つ目は「高齢化が引き起こす問題」です。何の相続対策もしないまま歳を重ね、そのうち認知症になってしまう人が、最近、目立って多いと感じています。実は、今私が最も危惧しているのがこの問題です。
被相続人となるべき人が認知症になってしまうと、まず財産がどこにあるか把握できなくなります。家族が把握していればまだいいですが、そううまくいく話ばかりではありません。借入金などがあれば、それを家族に隠していることもあります。
また、認知症になると契約を結んだり権利の行使をしたりなど、さまざまなことが制限され、単独で何かをする、ということができなくなってしまいます。当然、遺言、贈与、資産の組み換え、事業承継など、相続の生前対策の多くが実行できなくなるのです。
財産が多額の場合にその状態になってしまうと、相続人は取得財産の半分ほどをそのまま税金として取られることを覚悟しなければなりません。分け方でもめて相続争いに発展してしまうこともあります。
お気付きの方もおられると思いますが、実は相続という観点から見ると被相続人が認知症になってしまった状態はもう、生前の相続対策を打てず、遺言書も書けずに亡くなってしまうといった不都合な状態にあるのです。
祖父や祖母はまだまだ健康だから大丈夫、と思う方もいるかもしれません。しかしそれは肉体的な部分だけではありませんか。認知症は体が丈夫に見えても発症しているかもしれません。
実は、頭がさえている時に名前、住所、自分がどこにいるかわかる、サインが書けるレベルであれば打つ手がいくつかあります。この事例でも、時折認知症が見られる程度でしたから、そのチャンスがあったことになります。民生委員は頭がさえている状態の時にしか会話を交わしていないので認知症に気付かなかったと言いますが、せめて2人の息子さんが気付いていれば、何らかの対策が実行できた可能性はあったことになります。
日本が長寿国になったのはいいことですが、長寿になって高齢化した分、認知症が増えてきているように感じます。そしてそれによって引き起こされる相続の問題は、一般的な高齢化の問題よりも顕著に出ているかもしれません。
現代では、70歳をすぎても名義は親のものであったり、ご自分の相続相談かと思ったら親の相続だったり、ということも多いのです。相続対策のタイミングを逃すと、いつの間にか解決できないほどの問題が山積することになります。