「手術が好き」ただそれだけだった…。新人外科医:山川が見た、壮絶な医療現場のリアル。※勤務医・月村易人氏の小説『孤独な子ドクター』(幻冬舎MC)より一部を抜粋し、連載していきます。

全身に緊張が走る。脳裏に浮かんだのは…

執刀するしないにかかわらず、その患者さんの手術のメンバーに組まれた場合は担当医として挨拶や簡単な診察を行う。もちろん検査結果や画像検査の結果もしっかりと術前に確認し、執刀医と同じように準備する。

 

この患者さんについても同様に準備をして手術に挑んでいるのだが、そろそろ執刀のチャンスがあるのではと思っていたので特にこの日は入念に準備をしてきていた。僕は嬉しくなってマスクの中で思わずにやける。

 

「頑張ります」

 

嬉しいと思ったのも束の間、全身に緊張が走る。僕はこれから上級医たちに品定めをされるのだ。そう思うと、心臓が縮こまり、息がしづらくなる。

 

今から行われる「腹腔鏡下胆嚢摘出術」は、胆嚢炎や胆嚢結石症に対して行われる手術である。昔は、開腹手術が主流だったが、今は腹腔鏡という内視鏡カメラでお腹の中をモニターに映して、専用の鉗子(かんし)や電気メスなどを使って手術を行う腹腔鏡下手術が一般的である。

 

そろそろ初執刀のチャンスがくるのではないかと思っていたのは、一週間前に同期の東(あずま)さんが初執刀を経験していたからだ。その術式も腹腔鏡下胆嚢摘出術だった。

 

胆嚢炎や胆石症は比較的頻度の高い疾患で症例も多く、手術もたくさん行われている。難易度はピンからキリまであるが、簡単なものであれば手順も少なく、1時間程度で終わるため、僕たちのような若手外科医が最初に経験することが多い手術の1つだ。

 

同期が2人いればどちらかが先に初執刀を経験し、どちらかは後になる。それは当然のことである。頭では分かっていても、東さんが執刀したと聞いた時は、とんでもなく差をつけられたような気がして、それ以来僕はちょっとした焦燥感にかられていた。

 

本記事は連載『孤独な子ドクター』を再編集したものです。

 

月村 易人

 

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孤独な子ドクター

孤独な子ドクター

月村 易人

幻冬舎メディアコンサルティング

現役外科医が描く、医療奮闘記。 「手術が好き」ただそれだけだった…。山川悠は、研修期間を終えて東国病院に勤めはじめた1年目の外科医。不慣れな手術室で一人動けず立ち尽くしたり、患者さんに舐められないようコミュニ…

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