近年、高齢になった親の財産をめぐり「囲い込み」のトラブルが増えています。囲い込みとは、親の面倒を見ている子どもが他の親族との面会を妨害する行為です。親の預貯金を使い込んだり、自分に有利な遺言を書かせたり…、「やったもの勝ち」にしないためにはどうすればよいのでしょうか? 200件以上の相続事件に携わってきた筆者が、実際にあった「囲い込み」の事例を解説します。※本連載は、武蔵野経営法律事務所代表・加藤剛毅氏の著書『トラブル事案にまなぶ「泥沼」相続争い 解決・予防の手引』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

「問題解決の方法に正解はない」…囲い込みの現状

このように、近時、囲い込みの問題が増えてきていますが、これに対する有効な解決策は限られます。前述の後見人選任の申立てをする場合には、囲い込んだ親族の協力が得られないと、後見人選任の審判を出す要件である医師の診断書の提出が困難になります(前回の記事『認知症父の財産狙い「囲い込み」実行…スパイ映画のような展開』で解説。関連記事参照)。

 

そこで、囲い込んだ親族が反対しても、必要性が認められれば、本人が入院している病院や施設に対する調査嘱託の申立てを裁判所が積極的に採用するなどの運用の改善が必要と考えています。

 

また、親族が面会を妨害する場合には、裁判所が積極的に面会妨害禁止の仮処分命令を出すなどの運用の改善も必要でしょう。

 

いずれにしても、「囲い込み」の問題に正解はないのが現状です。そして、「囲い込み」の問題は多くの場合、その後の遺産をめぐる紛争の前哨戦でもあるのです。

 

<教訓>

「囲い込み」の問題解決の方法に正解はなし。

「やったもの勝ち」にしないためには?2つの措置

■面会妨害禁止の仮処分

 

「面会妨害禁止の仮処分」とは、文字どおり、面会の妨害をする者に対してその妨害行為を禁止することを命ずる仮処分のことをいいます。これまでは、このような類型の仮処分が認められたことはありませんでした。

 

しかし本文中にも記載しましたが、先般横浜地裁において、本件と類似の事案で面会の妨害を禁止する旨の仮処分命令が出され、これまでになかった画期的な判断として注目されました。今後は類似の事案で、この仮処分命令が出される事案が増えていくのではないかと期待されています。

 

■調査嘱託の申立て

 

「調査嘱託の申立て」とは、裁判所に対し、必要な調査を官公庁その他適当と認める者に嘱託し、又は銀行、信託会社、関係人の使用者その他の者に対し関係人の預金、信託財産、収入その他の事項に関して必要な報告を求めるよう要求する申立てのことをいいます。

 

 

加藤 剛毅

武蔵野経営法律事務所 代表

弁護士、元さいたま家庭裁判所家事調停官

 

 

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