「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。そして、介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもできるという。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。

ピンク色の四角い磁気カード噴出大事件

トイレットペーパーは磁気カード説

 

じーじは、認知星人のスイッチが入るとそれはそれは、地球人が思いもつかないような驚くべき発想で私たちに難題を突き付けてくる。

 

最近のじーじは認知症の症状でよくあるとされる収集癖*がみられるようになり、ズボンやシャツのポケットには、きれいに畳まれたトイレットペーパーを山ほど入れている。毎日、見つけては捨てているのだが、うっかり、ポッケを確認しないで洗濯機を回してしまった後の惨劇と言ったら……。

 

「また、やられた~ぁ、くそじじー」「まあ、お下品なものの言い方」などと一人芝居をしながら紙屑だらけの洗濯物を干すこの虚しさ。

 

ピンク色の四角の磁気カード噴出事件が勃発。(※写真はイメージです/PIXTA)
ピンク色の四角の磁気カード噴出事件が勃発。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

そんなある日、なにやらぶつぶつと言いながら、何かを探している様子のじーじ。普段はすり足で、カメさんのような歩みだが、今日は、チーターにも負けないような速さで家中をセカセカ歩き回っているではないか。

 

「なんだ、結構速く歩けるじゃない」なんて呑気に構えている場合じゃないくらいに、その形相は般若のよう。「どうしたの?」と尋ねると。

 

「オレの磁気カードがない」
「磁気カード?」
「そうだ。ピンク色で、これくらいの大きさの、四角いやつだ」

 

ピンク? 磁気カード? 私にはなんのことやらさっぱりわからないが、じーじにとってはとても大切なものらしく、ますます険しい顔つきで家中を探し回っているではないか。

 

「机の上に置いてあったやつも、寝台(じーじはベッドを寝台と呼ぶ)の横に置いてあったやつもないんだ……きっとスパイに盗まれたに違いない」

 

ついには、「もうだめだ…」と言いながら、頭を抱えてうなだれている。

 

お! ちょっと待てよ、ピンク! これくらいの大きさ?……もしかして、トイレットペーパーか? わが家のトイレットペーパーはピンク色。そして、これくらいの大きさ? 机の上? ベッドの横? もしかしてあのゴミか?

 

「あ! あれね。捨てちゃったよ」
「す、捨てただとぉ~。あれがないと、わが国には大変なことが起きる」

 

へ? 大変なことが起きる? あの、トイレットペーパーがか?


  
収集癖
認知症の症状の一つ。モノを集めてしまう、または拾ってくるなどがある。

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認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

黒川 玲子

海竜社

わけのわからない行動や言葉を発する前に必ず、じーっと一点を見据えていることを発見! その姿は、どこか遠い星と交信しているように見えた。その日以来私は、認知症の周辺症状が現れた時のじーじを 「認知症のスイッチが入っ…

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