日本各所に点在する、高級住宅地。どのようにして高級住宅地となったのか、その資産価値はどれくらいなのか。富裕層が住む、知られざる高級住宅地のストーリーを紐解いていきます。今回ご紹介するのは、渋谷区松涛。

日本屈指の高級住宅地は昔、茶屋だった

日本を代表する繁華街、渋谷。駅から東急百貨店本店方面へと坂をのぼっていくと、これまでの喧騒から一転、水を打ったかのような静かな街区が広がります。

 

SHIBUYA109の右手、東急本店通りをのぼっていくと…/PIXTA
SHIBUYA109の右手、東急本店通りをのぼっていくと…/PIXTA

 

「渋谷区松涛」。田園調布や成城などと並び称される、都内でも有数の高級住宅地です。

 

江戸時代、この地には紀州徳川家の下屋敷がありましたが、明治時代になると旧佐賀藩主の鍋島家に譲渡されます。鍋島家はここに茶園を開き「松濤園」と名付けますが、この茶園こそが、松濤という地名の由来となっています。またこの地で作られたお茶は松濤という名の高級銘柄で、人気を集めたとか。

 

しかし鉄道の発達により静岡茶が流通するようになると、松濤園は廃業。その後、果樹園などに転用されますが、大正時代に、この地に築かれた鍋島家の本邸周辺の土地とともに、数百坪単位で分譲されることになります。この分譲地、購入するためには紹介者が必要だったこともあり、政府高官や大企業の重役など、社会的地位の高い人が自然と邸宅を構えるようになります。

 

その後、渋谷はターミナル駅として、商業施設が集積する日本屈指の賑わいを誇る街へと成長します。繁華街に隣接する抜群の立地でありながら、喧騒とは対象的な穏やかな雰囲気……ほかにはない、唯一無二の高級住宅街は、こうして形づくられていったのです。

 

現在の松濤には、分譲当初と同様、1区画が大きく取られた敷地に瀟洒な邸宅が立ち並んでいます。この地は、用途や高さ、建ぺい率などが定められている第一種低層住居専用地域であり、200m2でないと家が建てられないというルールも。この厳格なルールによって、松濤は日本屈指の高級住宅地であり続けていられるのです。

 

かつてこの地に居を構えた人のなかには、渋谷の街に縁が深い人も。街のシンボル、忠犬ハチ公の飼い主で、東京大学教授だった上野英三郎は、松濤1丁目に住んでいました。また現在この地で一番の豪邸といわれているのが、日本屈指のECサイトを展開し、プロ野球球団ももつ企業のオーナー。500坪という広さは、完成当時、大きな話題になりました。

 

また文化事業に力を入れる東急グループの象徴のひとつでもある東急百貨店本店の裏手という立地に加え、「観世能楽堂」や「松濤美術館」などの文化施設も点在。街をさらに格調高いものにしています。松濤2丁目にある「鍋島松濤公園」は、かつて鍋島家の屋敷があった地が整備された公園。湧水池を中心に草花が彩り、地域住民の憩いの場となっています。

 

[図表1]渋谷区松濤地区周辺図

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