「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。そして、介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもできるという。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。

「認知星人VS地球防衛軍」の戦いは少し楽しくなった

「パーソン・センタード・ケア」という言葉をご存じだろうか? 日本語に訳すと「その人中心のケア」。その人らしさを尊重し、その人の立場にたったケアを行うということで、介護の現場でスタッフが心がけていることの一つである。

 

黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)
黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)

「その人の立場にたったケア!」と思った途端、あることがひらめいた。

 

「そうだ、じーじは認知星人なんだ、地球人のまま接していてはいけない! 私も何かに変身しなくては!」(ある意味間違った解釈だが、そこは気にしない)

 

この日を境に、私は「じーじを笑顔にする地球防衛軍」に変身することにした。認知星人に変身したじーじが仕かけてくる、数々の難問を「地球防衛軍」に変身して解決するのである。われながら素晴らしい発想の転換である。

 

しかし、認知星人の攻撃はすさまじく、修業の足りない地球防衛軍はイラッとすることもある。そんな時、気分転換もかねて認知星人が巻き起こす事件をフェイスブックに投稿したところ、なんと、多くの「いいね!」をいただけた。そこで調子に乗った私は、その後も続けて投稿するようになった。

 

それからというもの、じーじのおかしな言動は「お! 今日もいいネタができた。フェイスブックに投稿しよう」と、超前向きにとらえられるようになったのである。やがて、じーじに突き付けられる難問ですらも「どうやったら、笑って解決できるか」と考えるようになってきた。するとあら不思議、少しだけ介護が楽しくなってきたのである。もちろん、私はお釈迦様ではないので1日の中でイラッとすることはあるし、心の中で「くそじじ~」と叫ぶこともある。しかし、あの暗黒の世界だった頃に比べればパラダイスだ。

 

父は、現在92歳、要介護3。今はまだ自分でできることがあるが、症状が進行すればできないことが増え、やがて私の顔もわからなくなるだろう。でも、先のことを考えてもしかたないので考えない。これからも私にできることは、父を笑顔にする地球防衛軍でいることなのである。

 

正直、認知症の介護は大変だ。この瞬間にも、多くの方々が在宅での介護に奮闘されていることだろう。この記事が、毎日頑張っている方々にとって、少しでも「笑顔」の種となってくれたとしたら幸いだ。

 

黒川家の面々
じーじ
昭和3年生まれ。92歳。本稿の主人公。アルツハイマー型認知症、要介護3。
中国旅順市生まれ。満州からの引揚者。若い頃から酔うと大ぼらを吹く癖があり、満州時代の話には謎が多い。最近「自分史」の執筆に夢中だが、内容が壮大すぎてどこまでが真実なのかは不明。
ばーば・さっこ
昭和9年生まれ。86歳。じーじの妻。レビー小体型認知症、要介護4。
典型的なお嬢様タイプ。じーじに逆らうことなく生きていたが、今では気に入らないと「じーちゃんなんか大嫌い!」攻撃を浴びせ、じーじを撃退する技を身につけた。車イスでの生活のため、現在、ホームに入居中。
しょーた
わが家の長男(私の弟)。
温厚で人と争わないタイプで、見守りを頼んだ際、じーじの攻撃に負けて2度逃亡を図る(後述)。じーじは、彼が勤務している広告代理店が満鉄を作ったと思っている。
準夜勤ちゃん
じーじの孫(私の娘)。
夜型人間なので、深夜のじーじ見守り隊。夜な夜な一人外出しようとするじーじを発見してくれるわが家の助っ人であり、私の愚痴聞き担当。じーじは、孫の前ではあまり認知星人に変身しない。
 

黒川 玲子
医療福祉接遇インストラクター
東京都福祉サービス評価推進機構評価者

 

 

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