「どうにかならなかった」認知症の父親の介護
父がアルツハイマー型の認知症と診断された時、ショックを受けなかったわけではないが、認知症に対して、ある程度知識を持っていたので「あっちゃ~! やっぱりね」くらいの気持ちだった。もともと能天気な性格なもので、「どうにかなるでしょ」と、これから先のことに関して何も考えていなかった。
しかし、現実は甘くなかった。
「認知症の症状は緩やかに進行する」というが、父の場合はたった3日間の入院がきっかけで、新幹線のぞみばりのスピードで進行した。退院後は洋服の着替え方がわからなくなり、朝、パンツ一丁で立ちつくしていたりした。おまけに、日に何回も突然わけのわからないこと(私にとっては)を言っては、激しい口調で怒るようになったのだ。
なだめようとして(この考え方が上から目線でよくないのよね)いろいろ言うと、ますます怒り、しまいには机をバンバン叩く。言い方は悪いが、まるで子供がダダをこねているふうなのである。子供が相手なら「ママの言うことを聞かないと、お巡りさんに警察に連れていかれちゃうわよ」(子供の頃、私はこのセリフをよく言われた)とでも言えば、泣きながら「いやだ~、わかった~」となるだろうが、相手は91歳の父親。そんな子供だましが通用するわけもない。おまけに父は弁が立つので、ちょっと否定的なことを言おうものなら、100倍返しをくらうのである。
頭の中では、「認知症の人が言うことやすることを否定してはいけません」とわかっているものの、いちいち父の言動にイラッとし、ついつい「何してるのよ?」、「な~にわけのわからないことを言ってるの」、挙句の果てには「よけないことしないでよ」とまで言ってしまう。その後、「しまった。なんてことを言ってしまったんだ」と落ち込むのだが、落ち込んだ私を見て「今がチャンス」とばかりにますますパワーアップして、攻撃を仕かけてくる。
こんなふうなので、当時のわが家は毎日が戦闘態勢。暗い暗黒の世界だった。
しかし、父は一日中怒っているわけでもないし、わけのわからんことを言っているわけでもない。これには何かきっかけがあるのではないかと思い、父の様子を観察することにした。すると、ある行動がきっかけで、「普通の父」が「ちょっとおかしなじーじ」になることを発見したのだ。
その日から、私は「ちょっとおかしなじーじ」を認知星から来た、「認知星人じーじ」だと思うことにした。