「お給料見せて」「絶対に見せない」裁判所の判決は?
<争点(見解の違い)>
(元)夫:収入に関する資料を開示しない。養育費として毎月、夫の経済状況から可能な金額を支払っているので、金額として不合理ということはない。
(元)妻:養育費として支払われている金額が妥当であるかどうか分からない。これまで30万円を支払っていることもあるので、30万円で固定すべきである。
<結論>審判が確定
夫が収入に関する資料を完全には提出をしなかったため従前の支払額を参考にして考える。養育費は月額28万円とする。
<裁判所の判断のポイント>
1 (元)夫の収入の開示の状況
本ケースでは、(元)妻が養育費の調停を申し立てましたが不成立で終わり、審判に移行しました。審判の段階になって、夫は取引先の一部から保守管理を受託して契約書を開示しました。契約書には基本料金は記載されていましたが、付随的なサービスや追加の発注があったかどうかを読み取れるものではありませんでした。そのため、実際に受注した正確な金額は分かりませんでした。
また、妻の記憶としては少なくとも提出された契約書の企業以外からも受注しているはずでした。しかし、夫は提出した契約書以外の取引については、説明も資料提出も一切しない(拒否する)態度に終始していました。結局、資料からは夫の正確な収入を把握できない状態でした。
2 収入の推定計算
裁判所は、ここまでの事情(情報)だけを基に判断することになりました。重視された事情は、これまでの養育費としての支払額が平均25万円であったことです。
これを前提にして標準算定表を用いると、夫の事業所得は1267万円~1338万円のゾーンに該当します(権利者の給与所得600万円、義務者の事業所得1267万円~1338万円のゾーンの養育費金額は24~26万円)。つまり、妻が以前夫から聞いていた内容(収入が1300万円程度に達した)と整合します。
次に、過去の養育費の支払額は最大で30万円でした。このことから、夫の収入が1267万円~1338万円のゾーンよりも上である可能性があるといえます。また、妻が以前夫から聞いていた内容でも1300万円よりも上であることが推測されます。また、この夫の発言の後3年が経過しているので、全体的な売上金額が上がっている可能性もあります。
3 算定表上限の適用
一方で、夫の年収が標準算定表の上限(事業所得1409万円)を超えても養育費は上限の金額(妻の給与所得600万円の場合は26~28万円)を用いる考え方が一般的です。
結局、標準算定表の上限である28万円と定めれば、仮に、実は夫の収入が1409万円よりも高かったとしても妻に不利益になることはないとも考えられます。また、実は夫の収入が1409万円よりも低かった場合には養育費の金額(28万円)は夫に不利益といえますが、夫が説明や資料開示を不当に拒否した結果なので実質的に不当ということにはなりません。以上のような考察から、裁判所は養育費の金額を28万円と定めました。