厚生労働省によると、日本の離婚率は35%、離婚件数は20万件を超えるといわれています。しかし、ひと口に離婚といっても状況は違います。特に資産が多い夫婦の場合は、離婚したいと思ってもひと苦労。そこで離婚問題の中でも特に争いとなりやすい「財産分与」について、弁護士であり、プライベートバンカーライセンス(富裕層向けコンサルタント資格)を保有する岩崎総合法律事務所の岩崎隼人弁護士がQ&A形式で解説していきます。

経営者の離婚…自社株の扱いはどうなる?

【本記事の資産夫婦の財産分与Q&A】

Q.婚姻前に設立した会社であれば、財産分与で株式の半分を渡す必要はないのでしょうか?

Q.婚姻後に設立した非公開会社の場合、株式の半分を渡さないといけないのでしょうか? 経営は守れなくなってしまうのでしょうか?

Q.婚姻前にストックオプションの割り当てを受け、婚姻後にすべて行使して株式を取得し、これらすべてを売却した場合、その売却益は財産分与の対象になるのでしょうか?

 

離婚時の争点として、財産分与、親権、養育費、慰謝料の問題等が挙げられます。そのなかで、資産が多い夫婦が離婚する場合に、特に問題となりやすいのは財産分与です。

 

資産や職業の特殊性が財産分与に与える影響は大きく、過去には、資産220億円を巡って財産分与が争われたケースもあります。

 

離婚問題が予測される状況の方は、財産分与を見据えて大至急行うべき事前の対策があります(時期を逃すと有効な対策の多くが実行できなくなります)。

 

今回は、自社株の財産分与と、ストックオプションに係る財産分与を取り上げていきます。

 

Q. 婚姻前に設立した会社であれば、財産分与で株式の半分を渡す必要はないのでしょうか?

 

会社設立が婚姻前の場合、原則として株式は財産分与の対象になりません。

 

もっとも、この場合であっても会社の維持・発展に配偶者の寄与が認められる場合には、財産分与の対象となることがあります。

 

会社の維持・発展に対する寄与の判断ですが、判例においてはパーティーへの同伴出席といった内助の範囲にとどまる場合には、寄与が認められることはないとされています。

 

離婚原因(不貞行為など)をつくった夫からの離婚請求に対して、妻が婚姻前に夫が設立した会社の株式について、財産分与を請求したケース(東京地裁平成15年9月26日判決)

裁判所は、「原被告の生活状況からすると、被告(注:妻)の寄与が問題となるのは、原告(注:夫)と被告が、継続的な同居を始めた昭和55年以降と解するのが相当である。そうすると、取得時期の観点からすると、分与の対象となる共有財産となりうるのは、原則として、その後原告が取得した財産と解すべきであるから、N所在不動産、R所在不動産、S所在不動産、A社株式は特有財産といえ、直接は財産分与の対象とならない」として、当該株式につき、夫の特有財産性を認めました。

 

 

Q. 婚姻後に設立した非公開会社の場合、株式の半分を渡さないといけないのでしょうか?経営は守れなくなってしまうのでしょうか?

 

会社設立が婚姻後の場合、当該会社の株式は原則として共有財産と判断されます。分与の方法としては、清算方法と現物分与方法があります。清算方法とは、対象財産の帰属はそのまま変動せず、他方に清算金の支払をさせる方法で、これが原則です。したがって、経営権に支障が生じることはないのが原則です。

 

しかし、清算金を用意することが難しい場合は別途の検討が必要です。この点、非公開会社の場合、株式に譲渡制限が付されているので、たとえば非公開会社株式保有者の配偶者が、当該株式の一定割合を自らに現物分与するよう請求したとしても、(自らの議決権行使のみで決められる場合は別の論点となりますが、そうでなければ)通常株式譲渡の承認が得られない結果となります(企業経営者など自らの議決権行使のみで決められる場合であっても、出資を受けている多くのスタートアップオーナーの場合は株主間契約書等の契約的拘束力で譲渡せずに済む場合がほとんどです)。

 

このように株式を現物分与しない場合には、分与すべき株式の時価評価相当額を現金等で支払うことになりますので、場合によっては評価会社と提携しながら効果的な評価方法を検討する必要があります。

 

また、専ら企業経営者の努力で会社を成長させた事情などがあれば、当該努力が株価向上に大いに寄与しているとして、財産分与割合について自らに有利に裁判所に考慮してもらえます。

 

離婚しても会社は守りたい(※画像はイメージです/PIXTA)
離婚しても会社は守りたい(※画像はイメージです/PIXTA)

 

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